ホワイト・クロウ 伝説のダンサー (2018):映画短評
ホワイト・クロウ 伝説のダンサー (2018)ライター4人の平均評価: 4
バレエ界の元祖“野獣”はフレエフだった!
世界一優雅な野獣と呼ばれるS・ポルーニンのドキュメンタリーを見て、芸術表現は枠にはめられては無理と納得したが、本作は芸術家自身の気持ちを代弁する。冷戦中のソ連で国を代表するダンサーとなったルドルフ・ヌレエフが国家に束縛されて苦悩する姿が丹念に描かれ、自由に飛びたいと切望する彼に深く共感。身勝手でエキセントリックだが、見る人全てを虜にしたヌレエフの不思議な魅力を本作で俳優デビューしたO・イヴェンコがしっかりと体現。演技初体験とは思えない表現力に驚いた。監督も務めたR・ファインズはロシア語のセリフも流暢で、演出もとても真面目。もう少し、遊び心があってもよかったかも。エンドクレジットは必見です!
バレエファンなら満足も、もっと見たい欲求も
男性ダンサーが超絶技巧を発揮できる「バヤデール」のソロルのバリエーションをしっかりと見せ、セルゲイ・ポルーニンにも見せ場を作ってはいるが、これだけ踊れるキャストを抜擢したので、もっとバレエシーンがあっても良かったとも。しかし、その寸止めで後半の物語がダイナミズムをもつのだと納得。監督ファインズの集中力は、そこにある。ヌレエフと同じ天才亡命ダンサー、バリシニコフから助言を受けたことで、ヌレエフらしい所作や、亡命前後の葛藤がスクリーンにしっかりと刻印された。ランダムに時間が行き来するようで、そこに深い意味が込められたことも観ているうちに伝わるなど、熟練の演出と編集に感服。ドラマとして重厚な見応え。
全体主義的な社会で個を貫くことの厳しさと尊さ
20世紀のバレエ界を代表する伝説ルドルフ・ヌレエフの半生、具体的には幼少期からパリで亡命するまでを描いた伝記映画である。恵まれない環境に育ったソビエトの貧しい少年が、ただひたすら「自由に踊りたい」という意志を貫き人生を切り開いていく。個人よりも集団を尊重する社会にあって、周囲に流されず自己を貫徹することの厳しさと尊さ。一見して尊大で身勝手に思えるヌレエフの言動も、理想のためにたった一人で闘い続けるためには必要だったのだろう。ヌレエフ役にオレグ・イヴェンコ、ソロヴィヨフ役にセルゲイ・ポルーニンとトップダンサーを起用したバレエシーンも大きな見どころ。特にイヴェンコはヌレエフに瓜二つ!
人間ドラマとサスペンスが高密度で融合
天才バレエ・ダンサー、ヌレエフが旧ソ連から西側に亡命したのは有名だが、その裏に何があったのかを検証したのが本作。
KGBに見張られながら窮屈なパリ公演をこなすさまを、ヌレエフの過去を織り込みながら見つめ、そこから母国での締め付けの厳しさが浮かびあがる。アーティストにして同性愛者、頑固者、エゴイストの側面も赤裸々に描き出しており、重厚でスリリングな人間ドラマとなった。
3度目の監督作となるR・ファインズの演出も冴え、史実の裏側に深く大胆に踏み込んでいく。ヌレエフの優美なダンスの再現はもちろん、彼が空港で亡命をこう、ラスト20分の急激なサスペンスの高まりもお見事!