2分の1の魔法 (2020):映画短評
2分の1の魔法 (2020)ライター5人の平均評価: 4
トムホ&クリプラですよ!前進前進また前進
魔法より科学を優先したことによる世界観が興味深いなか、オタクと陰キャなエルフ兄弟の冒険譚としては、かなり生活圏内なミニマム展開に驚き。そして、トム・ホランドとクリス・プラットの絡みに、前進しまくるRPG感やら、やっぱり巧い伏線回収やら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オマージュまで、とにかく飽きさせない。しかも、ファミレスでの着ぐるみキャラなど、CG技術的にもスゴいキャラも登場。とはいえ、亡き父と兄とのエピソードが薄味に見え、テーマが被る『リメンバー・ミー』の後だけに、『モンスターズ・ユニバーシティ』のダン・スキャンロン監督作としては、ちょっとモノ足りない感もする。
きっかけ
ピクサーは舞香突飛な世界観を展開しますが、物語の根幹にあるものはものすごく普遍的なものばかりです。
2分の1の魔法もまた、魔法で死んだ父が蘇るという驚きの出来事から始まりますが、実際にはタイプの違った兄弟が、普段なら気が付かない互いの存在への感謝、友情を感じなおすお話です。
ならば、姉妹の物語でもいいのではないかと思いますが、こういう馬鹿なことに夢中になれるのはいつまでも子供っぽさが抜けない男ならでは。
だから、本作は兄弟であることが大きな肝なのです。ディズニー試写室にて。
そして世界は"魔法"の力を取り戻す
エルフやケンタウロス、マンティコアやピクシーなど神話伝説上の存在が平和に共存しているが、かつて電化製品などの効率優先の技術を受け入れたために今は"魔法"が弱体化している世界、という設定がまず上手い。そのような世界で"魔法"はどのようにして再び力を得ることが出来るのか。それが、兄弟の心躍る冒険の旅と共に描かれていく。
もうひとつの魅力は、物語の中心となる兄弟の声をクリス・プラットとトム・ホランドが演じていること。この兄弟のキャラが、かなりスターロードとピーター・パーカー。お調子者の陽気な兄と、ちょっと自分に自身がない弟のやりとりは、この俳優2人が演じている姿に脳内変換しながら見ても楽しい。
「魔法」をかけられるのは、われわれ観客だった
「またテーマは家族の絆ですよね、はい、はい」と冷めた気持ちで観始め、前半は確かに予定調和ムード。しかし中盤から、思いもよらぬ変化球で感動させられる。毎回、ピクサーのこの逆転技に降参するのだが、この新作も例外ではない。
タイトルに関わる重要キャラクターなど、実写なら絶対に気味悪くなってしまう造形を、アニメならではの「愛おしさ」で見事にビジュアル化。ハリポタにも通じる世界観や、デル・トロ、ギリアムが好みそうなキャラを、かわいくアレンジして表現する創意工夫にも感心しまくり。マニアックな楽しさと、全世代共感ドラマをつなぐ「架け橋」は『リメンバー・ミー』に近いが、ヒーローアクションの醍醐味も備えている。
次のオスカー長編アニメ部門は決まったかも
近年シリーズ物が増えているピクサーが、これぞ原点と言えるような傑作を送り出した。個人的には早くもオスカーをあげたいが、これを上回るような映画がこの後も出てくるならもちろん大歓迎。一度でいいから父に会いたいと願う16歳の切実な努力を描くこのアドベンチャー物語は、同時に、彼の成長物語でもあり、兄弟愛の話でもある。見終わった後、身近にいる人に感謝しなきゃとか、自分はちょっと怠け者になっていたかなとか、良い意味で反省させてくれるが、それは決して後悔ではなく、「Onward」という原題が意味するとおり、前進への促進。笑って、泣けて、最後にまた笑顔になれて、後味も最高だ。