ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 (2019):映画短評
ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 (2019)ライター6人の平均評価: 4
ロマコメなのに、徹底的に攻めまくる!
ヒット中の『0キス』と同じ格差恋愛コメディだが、ジョナサン・レヴィン監督作だけに、ひと筋縄でいくわけがない。核となる政治ネタはもちろん、下ネタにクスリ、「TVスターのほとんどは映画界で成功しない」話題直後にリサ・クドローを出す芸能ネタと、かなり攻めまくってる。しかも、ロマコメ定番のロードムービーとしての観やすさに加え、いま聴くと、さらにグッとくるロクセットに、ボーイズ・II・メン、「ビバヒル」、『原始のマン』といった、主人公と同世代ならたまらんワードがスパイスとなった脚本の巧さに唸らされる。そして、MDMAをキメた直後に、やむなく人質解放の交渉をするシャリ姐。この芝居は圧巻だ!
政治風刺+ラブコメ+フェミニズム=爆笑
野心家美女と太めのポリ・コレ青年が『プリティ・ウーマン』的に互いの欠けた部分を補いつつ、インスパイアし合う展開は、爆笑の嵐。現職を彷彿させるボンクラ大統領や隣国のイケメン(?)首相をいじったり、政治の裏側を露悪趣味的にコケにしたり。『The Interview』でS・ローゲンとの相性の良さを見せた脚本家D・シルバーマンと『ペンタゴン・ペーパーズ』脚本家L・ハナが組んだことで笑いがさらに洗練された。ほぼ完璧な美女S・セロンの突き抜けたコメディ演技がすばらしく、『スキャンダル』との合わせ技で2個目のオスカーゲットの予感。そしてS・ローゲンは相変わらずチャーミングで、男子力の高さを見せつける。
トランプ時代を一刀両断する痛快なロマンティック・コメディ
アメリカでの興行成績は伸び悩んだようだが、しかしこれが想像以上に面白かった!過激な体制批判を繰り広げるリベラル系ジャーナリストと、次期大統領候補と目される才色兼備の女性国務長官が、世界をより良くするという共通の理想のもとにタッグを組み、やがて公私共にベストパートナーとなっていく。いわば、トランプ時代のアメリカに物申す社会派のロマンティック・コメディ。パワフルで世事に長けたキャリア女性を、博識だが社交性に難アリのギーク男性が内助の功で支えるという、ジェンダーの役割に一石を投じるような設定もタイムリーだ。それでいて下ネタやブラックジョークも満載。トランプ瓜二つなメディア王のクズっぷりも笑える。
ラブコメに今の問題を軽やかにぶっこむ、ハリウッドらしい快作
『ローマの休日』『プリティ・ウーマン』を受け継ぐように、立場の違いで結ばれるはずはないが、それでも…とヤキモキさせる王道ラブコメ設定に、2020年の今っぽい味付けがじつに巧妙。国務長官→大統領候補となる主人公まわりの描写は、映画っぽく軽く誇張され、ふざけた部分もあるが、要所で国のトップとそのチームの舞台裏が生々しいので、嘘っぽさを感じさせず物語に引き込まれる。基本コメディに、政治家の建前と本音、環境問題などを軽やかにぶっこみ、さりげなく批判精神を貫く。ハリウッドらしいスタイルが見事に機能し、素直な感動が生まれた。プロデューサーを務めただけあって、主演2人が心から楽しんで演じる姿だけでも眼福。
シャーリーズ・セロンの美しさにウットリ
シャーリーズ・セロンが、輝くばかりの美しさをたっぷり堪能させてくれるのが嬉しい。美しい容姿をもつ女優たちは、それを封印して演技力を見せる役柄を選びがちだが、まっすぐ放射される美貌は見ているだけで気持ちいいので、そのまま輝かせていただくだけで、眼福。
ストーリーは、社会的地位もルックス偏差値も高い女性と、あらゆる面で格下の男性のラブコメディなので、ちょっとバランスを間違えると女性の権利映画になりかねないところを、ちゃんと笑えるラブコメに着地。相手役のセス・ローゲンの柔らかな物腰と子供っぽい感じ、2人が高校時代に聞いていた設定のナツメロが、物語の雰囲気にピッタリ。
今のアメリカならではの社会派ロマンチックコメディ
大統領は、元テレビ俳優のナルシスト。彼が再選を狙わないと聞いて出馬を決める女性候補者は、やり手だけど好感度がいまいち。さらにメディアの買収とか、SNSを使った嫌がらせとか、民主党支持者は共和党支持者と友達になれるのかとか、今のアメリカの要素が、この映画にはたっぷり詰まっている。もちろん、セス・ローゲンお得意の下品なネタや自虐ジョークもあり。最後は「本当にこうあるべきだよね」という気持ちにさせる、ファンタジーでもある。意外なコメディのセンスを発揮するアレキサンダー・スカルスガルドや、特殊メイクですぐにはわからないアンディ・サーキスなど、キャスティングも最高。