モービウス (2021):映画短評
モービウス (2021)ライター6人の平均評価: 3.2
ジャレッド・レトの色気がスゴい!!
“11代目ドクター・フー”こと、マット・スミスに中盤喰われ気味になりながら、巨漢キャラの『ハウス・オブ・グッチ』とは正反対な病弱アプローチでモービウスに挑んだジャレッド・レトがスゴい! 特に色気が!! まるで『ハイランダー』のような空中戦には前のめり気味になるものの、“コウモリ版『ザ・フライ』”からの盟友マイロの分かりやすい裏切りなど、展開的にはこちらの予想を超えることはない。また『ヴェノム』のようなユーモアがないぶん一本調子になっており、そういう意味でも、役者のスター性と監督の『エイリアン』愛だけで成立させた『ライフ』のダニエル・エスピノーサらしい一作といえるかもしれない。
お金をかけたB級ホラーとして楽しむべし
血液の難病を抱えた天才医師モービウスが、吸血コウモリの血清を用いた画期的な治療薬を自らに投与したところ、血に飢えた凶暴なヴァンパイアに変身してしまう…という「ソニー・スパイダーマン・ユニバース」の最新作。基本プロットは『ハエ男の恐怖』や『蜂女の実験室』などの焼き直し。医師としての理性と吸血鬼としての本能が衝突する内なる葛藤や、同じく吸血鬼と化して暴走する親友マイロとの対立などは『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』と似ており、諸々の既視感は否めないだろう。登場人物の描き込みも浅いため、唐突な心理変化に戸惑うこともしばしば。ただ、この「お金をかけたB級ホラー」的なノリは嫌いじゃない。
人間と他の生物、やっぱり混ぜたら危険!
他の生物と一体化して肉体能力が異様に進化する点で、あの『ザ・フライ』と重ねたくなるゾワゾワな恐ろしさ。そしてもちろんコウモリなので、ヴァンパイアものとして妖しさが全編を支配する。
DCでジョーカー演じたジャレッド・レト、今回のマーベルでのヴィランは怪演能力を封じ込め、シビア&ダークさに徹し、親友との複雑な愛憎に集中した印象。もうちょっと強烈な“業(ごう)”のような感情を受け取りたかった気も。
モービウスのスピーディな動き、ダイナミック飛行を映像化するうえでのビジュアル味付けは斬新とはいえ、ドラマやキャラ設定を含めて全体的に独創性、個性の物足りなさは感じる。今後のスパイダーマンとの接触に期待!
悪意という名の街で、染まる者と染まらぬ者が激突!
マーベル映画としては久しぶりにユーモアよりシリアスに振れた作品。友情から始まる物語は、その亀裂へと展開していく。
難病を抱えた者同士が友となり、超人化した後に、価値観の違いが明確になって敵対。そこに切なさを見ることもできるうえに、邪心と格闘する主人公の内面のドラマは『ヴェノム』の真面目なバージョンというべきテイストで、こちらも見応えがある。
そして主演のJ・レト。今回も肉体改造を含めての大熱演で、スゴい役者であることを再確認。コミック好きのエスピノーザ監督らしいスピード感のある語り口も光り、一気に楽しめる。NYが舞台なのに撮影のほとんどを英国で行なっていたことに驚いた。
ダークヒーローがまた一人!!!
SSU=ソニーズ・スパイダーマン・ユニバースの新たなる矢”モービウス”はホラーテイスト満載のダークサスペンス。結構、遠慮のない描写もあって、満足度が高いです。とにかく主演がカメレオン俳優のジャレッド・レトなので安心して見られます。
SSUの良いところはオリジンから描きながらも2時間弱に納めてスカッと見て終われるところ、今後もまだまだ楽しみです。一つ難を言えばSSUはスパイダーマンのヴィランからダークヒーローを発掘する路線なので、全体として闇くなりがちなところですかね。そのあたりのイメージ戦略も気になります。
空気の微細な振動を視覚化する映像が美しい
モービウスが、コウモリの能力を得て感知可能になった空気の微細な振動と、それに共振する自分を、彼自身がどのように感じているのかを視覚化する映像が美しい。ほとんど全編を通して、夜。場所が変わっても夜がずっと同じ色彩なのは、監督のこだわりか。
振り返れば本作は最初から、スーパーヒーローではなくヴィランを描くと明言していた。さらにその枠組みを取り払い、難病を患う少年2人が、その病によって強く結びついたまま青年になり、奇妙な治癒法に出会うダーク・ファンタジーであり、それをジャレッド・レトーとマット・スミスが演じる物語と見ることも可能。2人を幼い頃から治療してきた医師役のジャレッド・ハリスも好配役。