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海辺の映画館-キネマの玉手箱 (2020):映画短評

海辺の映画館-キネマの玉手箱 (2020)

2020年7月31日公開 179分

海辺の映画館-キネマの玉手箱
(C) 2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.7

轟 夕起夫

改めて、映画とは“時空のタイムリープ”の連続で成り立っている

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

大林監督の自分史と、日本の戦争史、世界の映画史などが組み込まれた「シネマ・ゲルニカ」の最新形であり「A MOVIE」の到達点。その「玉手箱」を開ければ、“時間の奔流”が飛び出す。白髪にこそならないものの、我々の身と心は浦島太郎のごとき衝撃を擬似体験するわけだ。

本作のために見出された吉田玲演ずる“時をかける少女”の、シーンをまたがってリフレインされる「ふふッ、ふふふふッ」という笑い声が大林映画的な“幻想と怪奇”のエッセンスをほとばしらせる。が、かつて新人だった“時をかける少女”原田知世に、戦争で亡くなってしまった監督の知人がダブらされていたことを思うと、また違った感慨が沸き起こるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

トラウマ必至なラストメッセージ!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

当初の公開初日(4月10日)に大林宜彦監督が逝去されたことに、運命的なものを感じつつ、戦後75周年を迎える夏に上映されることの意義も大きい。遊び心たっぷりのブッ飛んだシチュエーションとダダ漏れする熱量は変わらず、大林組常連から懐かしの俳優らが織りなす万華鏡のような映像体験は、ある意味トラウマもの。戦争の悲惨さだけでなく、映画史も振り返る『ニュー・シネマ・パラダイス』感ある設定など、「戦争三部作」に比べると、サクッと入り込めるだけに、怖いモノ見たさの初心者はもちろん、近年遠ざかっていた「尾道三部作」ファンも、“映像の魔術師”からのラストメッセージを劇場で受け止めるべし!

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

玉手箱に中には想いがいっぱい

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

尾道を舞台にした映像の魔術師・大林宣彦監督の遺作となった作品。
玉手箱の言葉通り、大林監督の平和への願い、ありとあらゆる映像テクニック、映画への溢れんばかりの愛情が濃密にギュッと凝縮されています。
新人からベテラン、さらにミュージシャンなどの異業種の人間までとにかく名のある大物がどんどん登場してくれます。
集大成『花筐/HANAGATAMI』を撮った後、まさかそれを上回るような超重量級作品を残してくれるとは…。

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中山 治美

圧巻の179分

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

『この空の花火ー長岡花火物語』から始まった戦争三部作もパワフルだったが、それにも増してのカット数と情報量、そして戦争の悲惨さを後世に伝えねばならぬという切なる思いが溢れ出ていて、ただ、ただ圧倒される。しかも物語は幕末まで遡り日本人同士が斬り合っていた現実を突きつけ、さらに戦争の相手が他国となっても圧倒的な権力者が市民を無碍に殺戮し、女性を辱めていたという味方同士が傷つけあっていた史実を描く。劇中「映画は歴史を知る最先端のタイムマシン」というセリフがあるが、加害の歴史も学びなさいという大林監督の声が聞こえてくるかのよう。斬新な映像表現も含めて、これは大林監督からの映画版”最期の講義”である。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

“A MOVIE”の極点、映画の世界遺産

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『この空の花』から「シネマ・ゲルニカ」を標榜し始めた大林宣彦が、聖地・尾道で巨大な壁画を描きあげた。リミッター完全解除で、中原中也の引用、映画作家達への思慕(オマージュ)を乗っけつつ、戊辰戦争から桜隊の悲劇まで「戦争」の歴史をタイムリープする。

大林映画の要となる「編集」は、撮影で得た生命力を「個人=私」の想像力で魔法をかける儀式だろう。破格のエネルギーに満ち、豊穣なエロスとタナトスも溢れ出る。ゴダールのライヴ・ストリーム『コロナの時代の愛』が話題になったばかりだが、筆者の中では『海辺の映画館』の存在感が増すばかりだ。2020年とこれからの世界で最も重要な作品のひとつであるのは間違いない。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

映画作家の集大成として。そして映画館への渾身の愛を込めて

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

原爆の犠牲になった「桜隊」など事実を基にしたことで、前作『花筐/ HANAGATAMI』以上にメッセージには切迫感を帯び、それでいて自由な時空の行き来、映画内への移動など「遊び」の精神はさらに加速した。このシリアスと軽やかさが起こす不思議な「渦」のような感覚。他の監督には絶対マネできない。中盤はやや長く感じられるも、その「長さ」の間も初期作品への原点回帰の発見など、映画作家の人生の旅に同行できる。なんとも至福な時間だ。
無声映画からミュージカル、同じ尾道の『東京物語』にまで愛を捧げまくり、『ニュー・シネマ・パラダイス』的な映画館への慕情は、コロナ後の世界で、より深く受け止められると祈りたい。

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なかざわひでゆき

『HOUSE ハウス』も真っ青の天衣無縫な大林ワールド

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 近年、反戦をテーマに映画を撮ってきた大林宣彦監督が、いわばその集大成として取り組んだ野心作とのことだが、いやはや、『HOUSE ハウス』どころの話じゃないぶっ飛び具合に驚かされる。舞台は尾道。閉館日を迎えた海辺の小さな映画館で「日本の戦争映画特集」が上映され、客席で見ていた若者たちがスクリーンの世界へ紛れ込んでしまう。ミュージカルからサスペンス、戦争アクションから時代劇に至るまで、ジャンルの垣根を軽々と飛び越えながら、太平洋戦争へと突き進んでいく日本の暗い近代史と、日本映画の歴史が同時並行で紐解かれていくわけだが、その万華鏡のごとき天衣無縫さに戸惑う観客も少なくないかもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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