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グレース・オブ・ゴッド 告発の時 (2019):映画短評

グレース・オブ・ゴッド 告発の時 (2019)

2020年7月17日公開 137分

グレース・オブ・ゴッド 告発の時
(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS-France 2 CINEMA-PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

相馬 学

虐待を引きずった者の葛藤に覗く、宗教社会の闇

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 F・オゾンにしては作りにエッジのない作品……といえばそれまでだが、神父による児童への性的虐待という実話の映画化、その事実だけでエッジは十分だ。

 物語は大人になり家庭を築きながらも、それでも引きずる被害者たちのトラウマの苦しみを描いている。目線をあくまでも被害者たちに置き、繊細にその心情をたどっているのは、実在の被害者たちに対する誠実さの表われといえるだろう。

 被害者たちの幾人かには自分が虐待された年齢に近い子どもがいる。M・プポーふんする主人公は教会を許せないと言いながら、それでも子どもたちと教会に通い続けているが、葛藤を抱えたその姿に、信仰の名のもとに築かれている社会の闇が見えた。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

児童虐待や性犯罪にまつわる諸問題を浮き彫りにする実録ドラマ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 フランスで実際に起きた聖職者による児童への性的虐待事件を、膨大な資料と当事者への取材で映画化した作品。地域住民から尊敬され信頼される神父が、その裏で信者の幼い少年たちを凌辱し、なおかつ地元教会はその事実を把握しながらも揉み消していたのである。しかし、成長して家庭を持った1人の被害者が、子供世代のために立ち上がったことから、その小さな声がやがて大きなうねりとなり変化をもたらす。フランソワ・オゾン監督には珍しい実録ドラマで、児童虐待や性犯罪にまつわる様々な問題を浮き彫りにする。小児性愛を同性愛と同列に語ろうとする教会関係者に、性的指向と性的倒錯は違うと断じる被害者男性の言葉も印象的だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

シニカル&エロを封印したF・オゾン監督の詩的な実話ドラマ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

カトリック司祭による性的虐待事件が続くが、本作はフランスの事件を被害者側の視点から描く。トラウマを抱えながらも信仰を捨てない男の勇気ある告発がさざ波のように静かに広がっていく過程をF・オゾン監督が情緒的に描写。教会の隠蔽体質や事なかれ主義、さらには「告解で贖罪」という許しがたい現実で闇に葬られようとしていた事件を暴いていく。といってもセンセーショナリズムに流れず、監督は常に心に傷を負った被害者に優しく寄り添う。事実をニュートラルに描くことが逆に見る側の怒りの炎に火をつける。係争中で公開差し止めの危機もあったらしいが、その時点で80人強と噂された被害者が実は3000人超えというから驚愕!

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

子供への性的虐待。その無自覚を静かに、どっしりと訴える

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

題材が衝撃的であるほど、そして伝えたい情熱が大きいほど、作品も自ずと激しさや劇的さを伴うものだが、今作はオゾン監督が冷静で淡々としたアプローチに徹し、それが静かな力強さにつながった。じわじわと怒りの感情が心を支配していく感覚。

子供時代に受けた性的虐待に対し、各人物それぞれの対応が胸に突き刺さる。沈黙することで罪の意識を認識し、勇気をふりしぼって訴えに出る姿は感動的だが、それ以上に、ひたすらトラウマとして向き合い、人生に諦めを感じた者のリアルも描き、罪の重さを実感させる。感情の「揺れ」もすくいとった演出/演技に感心。被害者の若い息子たちがどう考えるのか。そこまで踏み込むオゾンの本気に平伏す。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

今、理解するべき事柄を、冷静かつ効果的に語る

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

 性犯罪の被害者は、どうして長い年月が経った後に声を上げるのか。その間、その人たちはどんな傷を抱え、それは人生にどんな影響を及ぼしてきたのか。「#MeToo」以後、しばしば語られてきたそれらのことを、フランソワ・オゾンは、複数の登場人物の目線で、あらゆる角度から掘り下げる。その中ではまた、周囲の責任、理解やサポートの重要さも触れられていく。センセーショナルになりがちなテーマを扱いつつも、上手に抑制し、焦ることなく冷静に語っていくのも、より深く考えさせる上で効果的だ。被害者たちにとって「完全なるハッピーエンド」はないのだということを感じさせるラストもふさわしい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

『トガニ』的な映画の在り方

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

韓国の『トガニ 幼き瞳の告発』を連想させる性的虐待事件の映画化だが、映画作品が現実社会に及ぼした影響力の点でも両作は共通する。あちらが「トガニ法」の制定につながったように、『グレース~』は係争中の事件を扱い、問題の神父から裁判まで起こされたというのだから凄い。現在進行形で社会闘争に関わるものをF・オゾンが撮ったのは驚きだ。

ただし映画そのものはセンセーショナリズムを煽るケレンや露悪性は全くなく、むしろ“動きの鈍い”告発の過程を慌てずじっくり描いていく。作風の広いオゾンが手数の多さを封じ、それでも強度が落ちない。「恐れず、声を上げられるように」なるまでの根気強い戦いを丸ごと丁寧に伝える。

この短評にはネタバレを含んでいます
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