ヤクザと家族 The Family (2020):映画短評
ヤクザと家族 The Family (2020)ライター3人の平均評価: 4
綾野剛以上に惚れ惚れする北村有起哉
出所後に直面する組の変わり果てた姿や社会の厳しい目など、香港・韓国映画を観慣れている者なら、新たな発見やサプライズはなく、既視感あるエピソードが並んでいるようにも思える。だが、確かに3つの時代、3部構成で描かれる日本のヤクザ映画と観ると、なかなか興味深い仕上がり。藤井道人監督の演出だけでなく、今村圭佑の撮影も『新聞記者』より格段に巧くなっており、臨場感あるカメラワークも効果的だ。「本気のしるし」以上に惚れ惚れするほどの北村有起哉映画ではあるが、ソフトバンクのしずかちゃんや三井不動産のCMが気になる小宮山莉渚にも注目。もちろん『ヤクザと憲法』を踏まえて観ると、面白さは倍増。
消えゆくものへの哀愁、そして今の社会との偶然にも強烈なリンク
イケイケの血気盛んな時代に始まり、経験も重ねる円熟期、そしてシビアな現実と向き合う切実な終末期と、20年間を3パートで描く構成が、主人公と時代の関係を鮮やかに表出。綾野剛による20年の変化も驚くほど的確だが、3つの時代のムードを分ける演出や撮影が効果的で、若き俊英監督の堂々たる仕事っぷりに感心しきり。
「反社」として世の中から疎まれるヤクザの世界に、濃すぎる家族関係を重ね、誰もが不覚に抱く一抹の憧れを全編に漂わせつつ、当事者以外に向けられる不当な差別や偏見が冷静に突きつけられるので、2021年のコロナ禍の社会と重ねずにはいられない。監督の意図しなかった部分でも、時代に寄り添う感覚が生まれた。
家族のカタチ
正直、藤井道人監督に関して評価がまだ定まっていなところがあります。シリアス・リアルにならなくてはいけないところでファンタジーに転じてしまうクセがあって、それが合う時と合わない時の落差を感じていました。
そして、本作。シリアスな部分を真正面から描かなくてはいけない題材でしたが、本作は徹底して題材に向かい合うという気概を感じました。綾野剛もよいですが、舘ひろしがまた良い。70代に入った大ベテランですが、ここへ来て進化を見せてくれています。