プロミシング・ヤング・ウーマン (2020):映画短評
プロミシング・ヤング・ウーマン (2020)ライター7人の平均評価: 4.9
レイプ・カルチャーについて考えさせる復讐スリラー
少女っぽさが魅力のC・マリガンが羊の皮を被った狼を驚愕させる冒頭から「次に何が起こるの?」と興味をそそらせられずにはいられない展開。ヒロイン。キャシーの意図が徐々に明らかになると同時に性暴力社会を作る要因が描かれ、女性としては納得しきり。特に被害者に非があると思い込む女性の描き方がリアルだ。男性に対して心を閉ざしていたキャシーと旧友の再会によるラブコメ的な展開を絡ませながらも、彼女のモチベーションである復讐心を揺るがせないE・フェンネルの監督の筆力が素晴らしい。オスカー受賞も当然なり! 『キリング・イヴ』で賢くタフな女性を活躍させた監督らしいキャラ設定と綿密に計算された筋書きだ。
デートには不向きな衝撃作
最後の最後まで、何が起こるか予測できないオリジナル脚本の評価には納得だが、今年のオスカーでは“将来を約束された若き女性”を怪演し、主演女優賞も獲ってほしかったと思わせるキャリー・マリガンの存在感が圧倒的だ! 女性アーティストの楽曲が流れまくるエンタメ感もありつつ、アベル・フェラーラ監督の『天使の復讐』をポップかつカラフルに、現代向けにアップデートしたような印象も強い。そんなどこかカルト臭さも漂うアンバランスさが、ジワジワと後を引くのは必至。ブラックな笑いで包み込んだ、#MeToo時代のリベンジドラマだけに、明らかにデート映画には向いていないので要注意!
キャリー・マリガン大爆発!
とにかく、主演のキャリー・マリガンの大爆発・大暴走に圧倒されるリベンジムービー。
ストーリーの先が読めずに何が起こるのかハラハラドキドキさっせられ続けます。アカデミー賞脚本賞受賞も納得です。
映画製作者としても実績を出しつつあるマーゴット・ロビーがプロデュースに名を連ねていいて、彼女が主演するという選択肢もあったのでしょうが、キャリー・マリガンというちょっと意外なチョイスが、上手い方に転び、今となっては彼女以外の選択肢はなかったのではと思ってしまいます。
ドシっとの心に残る闇と強烈な爽快感を同時に感じることができる逸品です。
痛烈な物語、カラフルな映像、ブラックな笑い
容赦ない。この物語が糾弾する対象には漏れがなく、直接的に加害者に協力しないまでもそれを容認する周囲は言わずもがな、それだけではなく、一見、被害者の味方であるかのような発言をする人々が無意識のうちにもたらしてしまう弊害までをも照らし出す。その全方位射程ぶりが容赦ない。
そんな痛烈な物語なのに、映像はあくまでもカラフルでスタイリッシュ。脚本はブラックな笑いだけでなく、恋する時の高揚感もあれば、仕掛けもあるという巧絶さ。さまざまな扮装をするキャリー・マリガンは、色っぽかったり愛らしかったりくるくる変貌。彼女が攻撃的になる時にセクシーさが増すように見えるのは、一種のパラドックスなのか。
ハードコア・キャンディクラッシュ
今年のオスカー作の中で最もエンタメ度が高いかも。『ハード・キャンディ』(05年)も連想する、どぎついトラッシュ系テイストで彩る男性優位への徹底した逆襲・反撃。旧い制度に加担する者は全員私刑。極めてコンセプチュアルに組成されたサイコスリラーにしてブラックコメディであり、C・マリガンが怪演する『さそり』ばりのハードボイルドな制裁劇。
例えばB・バーナム扮する「ほぼ好青年」の、パリス・ヒルトン「STARS ARE BLIND」が流れた時の反応。意外なチャラさを示すこの描写など巧い。そしていかにも白人エリート的なアイビー系マッチョ青年の群れ。今や男たちの馬鹿騒ぎは「祝祭」ならぬ爆弾投げられがちだな!
強烈でオリジナル。重要なメッセージを伝える大傑作
語られるのは、ものすごく深刻なテーマ。それを、ポップでビビッドなカラーや、アップビードな音楽を使い、明るくラッピングしたところが斬新。中に入っているものの重さは話が進むにつれて次第に感じられていくのだが、あまりに衝撃的なラストを迎えた時には、とにかくぶっ飛んでしまう。そして、観終わった後に、あらためてじっくりと考えてしまうのだ。「たいしたことじゃない」「ちょっとしたおふざけ」な行動がそうでないことを、効果的かつインパクト大に語る大傑作。男性キャストに良い人っぽい俳優を揃えたのも賢い。今作で長編監督/脚本家デビューしたエメラルド・フェネルの今後に期待が高まる。
『キル・ビル』的な復讐劇は、好き/嫌いを超えて新たな次元へ
復讐のために夜な夜なバーで酔ったふりをして、誘ってきた男たちをハメる。そのまま描いたら、主人公の行動の突飛さ、強引さについていけないリスクもあったが、脚本が恐ろしく知的。いっちゃってるキャラと、周到な駆け引きのコントラストが、ひたすら快感! 要所には心の迷いや弱さも織り込み、過激な暴走劇に説得力が伴ってくる、前人未到の領域を急展開とともに味わう怪作である。
ポップな色使いや、見せ場に重なる音楽にも、隠れた意味やブラックな味つけを発見できるというマニアックな喜びを提供しつつ、究極のラブストーリーとして心が締めつけられる瞬間も。骨太な社会派テーマを「無意識に感じさせる」映画の真髄が、ここにある。