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ラストナイト・イン・ソーホー (2021):映画短評

ラストナイト・イン・ソーホー (2021)

2021年12月10日公開 118分

ラストナイト・イン・ソーホー
(C) 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.1

斉藤 博昭

魅惑のロンドンの夜に夢と現実が混ざり合うスリル、そして陶酔

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

映画マニア向けであり、ライトな層にも素直にアピールする。前作『ベイビー・ドライバー』同様、エドガー・ライト監督は「わかる人がわかる」ネタ、オマージュを大量にぶっ込みながら、映画を「おしゃれに」体験させる感覚をキープ。今回も観る人によって楽しみ方が変化する、独創的映画を誕生させた。
基本は戦慄スリラーだが、60年代ロンドンがスタイリッシュに再現されることで、おとぎ話の世界に入ったようでもある。夢と現実、そして過去と現在のボーダーが曖昧になるわりに、物語は複雑さに走らず、意外なほどわかりやすい。
逆に言えば、迷宮的な怪奇世界なのに心が激しくざわめくことはなく、妙にまとまり過ぎた物足りなさは感じる。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

私、イカレたの!?サイコなキャンディは少々酸っぱめ

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 E・ライトがホラーを撮ったら、こうなった。恐怖の焦点がミステリーとサイコに絞られているのが妙味。

 ヒロインが狂気にはまり込む過程はポランスキーの『反撥』を彷彿させ、青春映画の甘酸っぱさを漂わせつつ、英国ホラーの伝統を受け継ぐ。ナイフに写る顔や鮮血の描写にはジャーロ映画へのオマージュも。いずれにしても、監督のオタクっぷりを再確認できる。

 起用楽曲を1960年代、スウィンギン・ロンドンを象徴するナンバーで固めるこだわりも、さすがオタク監督。そんな中で一曲だけ、70年代のゴス曲が流れるのだが、それが恐怖を引き立てている妙。ライトのセンスの良さを再確認できる点でもファンは必見。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

いかがわしくも魅惑的な夜のロンドンの匂いが漂ってくる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 劇中でアニャ・テイラー=ジョイが歌う「恋のダウンタウン」は1964年の大ヒット曲。60年代後半のサイケデリックの波が押し寄せる直前、ギラギラした輝きといかがわしさに満ちたロンドンの夜の匂いが、画面から濃厚に漂ってくる。その極彩色に輝く危険な気配は、60~70年代の鮮血に彩られたホラー映画の放つ匂いと、波長が同じ。この2つの振動が溶け合って増幅し合い、動悸が高まり目が眩む魅惑的な世界を出現させる。
 これまでオタクぶりで魅了してきたエドガー・ライト監督が、そんな新境地を開拓。物語の中心となる非オタク女性2人の魅力的な人物像も、彼の新機軸。それでいてこの監督らしいキュートさは同じなのが嬉しい。

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くれい響

『マリグナント』にも匹敵する濃密度

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

ハリウッド・バビロンじゃなく、スウィンギング・ロンドンが舞台の“エドガー・ライト版『マルホランド・ドライブ』”。パブはやっぱり登場するなか、ヒロインがタクシーで学生寮に向かう『サスペリア』に始まるアルジェント感に、ヒッチコック、ポランスキーなど、『マリグナント 狂暴な悪夢』にも匹敵する濃密感に痺れる。60`sのイギリス映画のアイコンといえるベテラン陣に、旬の若手女優を絡ませる化学反応もお見事! さらに、パク・チャヌク組のカメラマン、チョン・ジョンフンが捉える眩い色彩美やら、『ベイビー・ドライバー』に続き、凝りに凝ったサントラやら、とにかく監督のあざとさが功を奏した仕上がりだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

ほとばしる技巧

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホットファズ』の時点で、ジャンルミックスの仕方やオマージュの捧げ方などエドガー・ライト監督がかなりクレバーなタイプの人であるとは思っていましたが、今作はさらにギアを数段上げてきた感じがあります。タイムリープ・サイコ・ホラーと聞いて、いったいどんな映画にしてくるのか?とあれこれ考えたのですが、そんな予想を軽々と上回ってきました。トーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイというフレッシュな魅力を放つ主演二人とダイアナ・リグとテレンス・スタンプというレジェンド二人。メインキャスト陣も最高の演技を見せてくれます。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

エドガー・ライトが若い女性を見つめる目が優しい

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

スタイリッシュで、ビジュアル的に刺激たっぷり。ホラー、心理スリラーでありながら、キャリアへの野心をもつ若い女性が搾取される暗い現実についても語っていく。エドガー・ライトが女性を主人公にしたのも(しかもふたり!)驚きだが、彼女らを見つめる目がとても優しいことに感激。そのふたりを演じる女優のキャスティングも抜群。60年代のロンドンを描きながらも、美化したノスタルジアに終始するのでなく、むしろ危険で醜い部分を描いているところが興味深い。サウンドトラックも最高で、見終わった後もついつい「Downtown」を口ずさんでしまう。あの歌と同じようにキャッチーで、完璧ではないけれども、オリジナルな映画。

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森 直人

狂い咲きした60sロンドン・バビロン!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

スウィンギングロンドン&サイコホラー版『ミッドナイト・イン・パリ』にして、上京女子のニューロティックな地獄めぐりは『ネオン・デーモン』に近い雰囲気がある。もしくは端的に、英国ミステリーの文脈で「ヒッチコック~ニコラス・ローグ」の系譜の変化球。鏡多用の眩惑的な演出もしっかり設計されている。

デイヴ・ディー・グループの『ソーホーの夜』やポランスキー『反撥』の引用など、本作の「60年代の幻影」の扱い方や距離感は見事だが、主題的には『プロミシング・ヤング・ウーマン』等に通じる現代性もある。同じ題材・脚本でも、エドガー・ライト監督ほど巧くやれる現役監督は他にいないかも。テレンス・スタンプも最高!

この短評にはネタバレを含んでいます
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