シェイン 世界が愛する厄介者のうた (2020):映画短評
シェイン 世界が愛する厄介者のうた (2020)ライター4人の平均評価: 4.3
聖なる酔っぱらいは、つねに今を生きる
20年前のドキュメンタリー映画『THE POGUES:堕ちた天使の詩』は40過ぎの酔いどれアーティスト、S・マガウアンにスポットを当てた傑作だった。20年を経て、60を過ぎた彼の今を描いたのが本作。
60歳記念コンサートの映像からある程度予想はしていたが、シェインはさらにヨレヨレ度を増していた。創作意欲はある。しかし現在もアル中だ。どちらに転ぶかはわからない。そこにスリルがにじむ。
アーティストとして復活するなら劇的だ。が、彼の代表曲のひとつ“サリー・マクレンナ”の詞のごとく酒に殉じても、筋は通る。どっちに転んでも納得のいく、そんな二つの未来を浮き彫りにした点で、傑作である。
天国は待ってくれる
「ニューヨークの夢」を生んだロマンチストにして、奥田民生どころじゃない“酔いどれ天使”シェイン。4歳で酒とタバコとギャンブルを覚える“裏『ベルファスト』”状態やクルマから落ちて昏睡状態になり、メンバーからクビを言い渡される日本での逸話も、ラルフ・ステッドマンの“動くイラスト”で再現。『SHANE-THE POGUES:堕ちた天使の詩』との重複もあるが、大統領から功労賞が贈られる還暦ライブなど、20年分の人生が追加。ジュリアン・テンプル監督の力技もあり、なんだかんだ深イイ人生讃歌に仕上がっている。プロデューサーを務めた盟友ジョニー・デップともに、某海賊映画を酒のツマミにするシーンは爆笑モノだ!
ふとした言葉が詩人であることを感じさせる
サブタイトル通りの人物像が描き出されて、ドキュメンタリーというよりどこか神話的物語の趣き。現在のシェインの語りは少々呂律が怪しいのに、ふとした言葉がこの人物が詩人であることを感じさせる。シェイン本人だけでなく、父母や妹の発言も率直で、この一家のドラマを垣間見る思い。古くから交流があるジョニー・デップが聞き手の一人として登場、彼がこういう人物に惹かれることが痛感されて、本作の製作への参加も納得。あの時代の空気が映し出されるのは、本作の監督、1979年の『セックス・ピストルズ/グレート・ロックンロール・スウィンドル』のジュリアン・テンプルも、シェイン同様、そのまっただ中にいたからだろう。
「ザ・ポーグス」その名に反応する人には感涙必至
世界的人気のバンドのフロントマン、ここまで破天荒なのか…と、その人生と素顔が激しいまでに心をざわつかせる。4歳で飲酒・喫煙を初体験し、6歳から常習。学生時代はドラッグを売り、男娼も経験など、出てくるエピソードが驚愕レベル。一方で「歌は空気に漂う。だからつかめばいい」といった名言が繰り出され、あの超名曲クリスマスソング「ニューヨークの夢」を生んだ天才の秘密にも触れた気分に。
昏睡状態になった日本のシーンがアニメで再現されたり、映画としての遊び心は作り手の愛情の表れか。30年来の親友ジョニー・デップとの酔っ払いながらの対話は眺めているだけで幸せになり、現実的には難しい再起に願いをかけたくなる。