ブラック・フォン (2021):映画短評
ブラック・フォン (2021)ライター5人の平均評価: 4.4
夏休みに観たいジュブナイル・ホラー
さすがはスティーブン・キングの息子、ジョー・ヒル原作の映画化。1978年の田舎町、謎の連続失踪事件から始まり、地下室の監禁部屋や超能力者である主人公の妹の参戦など、オヤジの作品で読んで観たような設定やシチュエーションが畳みかける。「黒電話」がキーワードのリアル脱出ゲームは、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」ファンも考慮したジュブナイル路線だが、ホラー演出に関しては『ドクター・ストレンジ』というより『NY心霊捜査官』なスコット・デリクソン監督の本領発揮。ただ、イーサン・ホークがほぼマスク&半裸姿でペニーワイズ的キャラを怪演するものの、どこかムダ遣いに見えるのが笑える。
S・キングのDNAを継承した猟奇ホラー・サスペンス
少年ばかりを狙った連続誘拐殺人事件が世間を震撼させる’78年のアメリカで、誘拐・監禁された13歳の少年フィニーが決死の脱出を試みる。スティーブン・キングの息子ジョー・ヒルが、ジョン・ウェイン・ゲイシー事件にヒントを得て書いた短編小説の映画化だ。ストーリーのキモは、子供が子供の力だけで絶体絶命の危機を乗り越えようとするところ。現実がそうであるように、善意の大人はあまり役に立たない。そういう意味でキングのDNAが強く感じられる。スーパーナチュラルな恐怖要素はわりと控えめだが、トム・サヴィーニのデザインした殺人鬼の邪悪なマスクは、『笑ふ男』のコンラート・ファイトを彷彿とさせてインパクト強烈だ。
十代の苛烈なサバイバル劇、これは上手い!
スティーブン・キングの息子J・ヒルの原作をS・デリクソンが映画化――ときめく企画だが、期待にたがわぬ内容で嬉しくなった。
殺人鬼と超常現象というふたつの恐怖のエッセンスを組み合わせ、ローティーンの少年のサバイバルと成長の物語に帰結する。ホラーというよりファンタジーとも思えるのは、デリクソンのストーリーテリングの巧みさゆえだろう。
70年代という時代背景のノスルタジーや、虐待に苦しんでいる子ども心の生々しさ。それらがリアリティを加えている点も、本作の大きな魅力となっている。デリクソンが『ドクター・ストレンジ』続編ではなく、こちらに取り組んだのも納得。
スリルは満足。核心部分は斬新。そして感動は意外なほど真っ直ぐ
サスペンススリラーらしく要所のドッキリ描写は、定番とはいえ実直。怖さはレベルクリア。
少年たちが誘拐される事件。タイトルの「黒電話」にまつわる核心部分は、最初こそ謎めいてキツネにつままれたように混乱も誘うが、そのルールが観ているうちに肌にしみこみ、主人公の妹の奇妙な体験もピースとして巧くはめ込まれる。子供たちの執念や絆が肝になるので全体的に『IT』のムードに近いし、数ある誘拐劇・脱出劇のエッセンスも取り込みつつ、本質は別次元なのも独自の輝き。
ラスト15分は異様レベルのハイテンションと怒涛の感動にまみれ、観ながら冷静さを失った。
監督の思い出が重ねられた某カルト映画の引用が微笑ましい。
少年たちの真っ直ぐな行動に胸が熱くなる
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』系と言いたくなるのは、時代背景とホラー映画でありつつ子供の成長物語であることが共通なだけでなく、小学生の少年少女の純粋で真っ直ぐな行動が胸を熱くしてくれるところが同じだから。ちなみに原作者はスティーブン・キングの息子ジョー・ヒルだ。
こうした物語の時代背景が1970年代後半~1980年代になってしまうのは、クリエイターたちの子供時代がその頃だからなのか、それとも子供たちの目に未来が明るく見えたのはあの時代が最後だからなのか。空手に夢中なラティーノ少年、熱く語られるホラー映画など、時代描写の数々も楽しい。