ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE (2023):映画短評
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE (2023)ライター9人の平均評価: 4.3
イーサンvs A.I.<人工知能>──世界史をぬりかえるのは
何度も武器としてフェイクを仕掛けてきたスパイという存在が“現代のフェイク沼”を生成させるA.I.空間であがく諧謔的な面白さ。イーサン・ハントが闘っているのは敵側の相手だけでなく、空虚な時代そのものに見える。
世代的にはTVアニメ『ルパン三世1st』の 第22話「先手必勝コンピューター作戦!」(72)や劇場版『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(78)のまさかの実写化に触れた思い。A.I.の汎用性に対し、あくまで己の精神と肉体に賭けてみせるイーサン/トム・クルーズのロマンチシズムに酔いしれた。(マクガフィンに振り切る、やや粗い脚本だけども)弓を最大限までしならせて、PARTⅡへと繋ぐ姿勢も良き。
スタントはもちろん、寡黙な女性刺客にも釘づけ
A.I.のシンギュラリティという近未来SF的な分野へと踏み込んだシリーズ。とはいえ、T・クルーズのスタント祭というコンセプトは変わらず、バイクでの断崖ダイブをはじめ豪快なアクションで大いに楽しませてくれる。
シリーズのファンに嬉しいのは、1作目以来の列車上バトルが繰り広げられること。前回はセット撮影だったが、今回は実際に列車を走らせたのだから、スタントの生の迫力もひとしおだ。
おなじみの顔ぶれがそろった一方で、味のある新キャラも多いが、とりわけ、P・クレメンティエフふんする女殺し屋がイイ味を出しており、セリフは少ないながらも存在感抜群。彼女の動向も含めてもPART2が楽しみになる。
我々は映画超人の生き様に立ちあっている
予告編としてメイキングが流れていた超高地の断崖絶壁からバイクジャンプ――この本編映像はもちろん凄かった。当然それだけではない。特に『キートンの大列車追跡』『暴走機関車』『戦場にかける橋』ら全てを凌駕する列車アクション! 単に肉体を張るだけでなく設計のアイデアも抜群だ。
本シリーズでは活劇的沸騰と語りのバランスにおいて『ゴースト・プロトクル』&『ローグ・ネイション』が双璧の傑作だと思うが、『フォールアウト』と今作は「記録更新に挑み続ける」別次元の凄みに達している。奇しくも俳優組合ストと同時に全米公開されたが、これは映画の快楽を死守するトム・クルーズの孤高の戦いのドキュメントと言えるだろう。
凄すぎるアクションシーンがたっぷり
観客を楽しませるためならどこまででもやるトム・クルーズのこだわりと情熱、誇りが伝わってくる。予告編にも出てくる、バイクで崖から飛び降りるシーンはその典型で、そこまでやるかとひたすら感心。見応えあるアクションシーンはほかにもたっぷり。とりわけクライマックスの電車でのアクションは、終始息を呑むスリルと迫力。ハリウッド映画史に残る名シーンと言っても決して褒めすぎではない。カーチェイスもユーモアがあり、これまで見たものと違う。ストーリーには予想しなかった感情的な部分も。コロナで予定より公開が遅れたが、そのせいでよりタイムリーに感じられる要素もある。この夏必見の極上エンタテインメント。
トムなりのアップデート満載!
ますますジャッキー化するトム・クルーズの身体張りまくりのデス・アクションに加え、1作目のオマージュも見られるなど、『ワイスピ』同様、シリーズ完結に向け、ただならぬ熱量を感じさせる最終章・前編。ファムファタールなグレース&暗殺者パリスという新キャラのほか、これまで以上に女性キャラを魅力的に捉えているのが特徴的だ。一方、登場人物だけでなく、観客までも煙に巻く設定やいきなりのコント展開など、デス・アクションを際立たせるためとしか考えられない、謎すぎる脚本が妙なテンションを醸し出す。そんなトムなりのアップデートは、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』にノレなかった人ほどハマるような気も。
このシリーズは、身体の使い方がちょっと別モノ
冒頭のタイトルシーンで、おなじみのテーマ曲のテンポが、前回よりもごくわずかだが速くなったと感じさせ、その時点で、このシリーズを常にアップデートしていこうとする製作陣の強い意志が伝わってくる。
アクション映画といえば、格闘や銃撃など敵と戦うシーンが多いが、このシリーズのアクションはちょっと別モノ。体を張ったアクションなのだが、身体の使い方が違う。敵を攻撃することよりも、走る、跳躍する、ぶら下がる、自動車で爆走する、高所からパラシュートで落下するといった、優れた身体能力や技能を発揮することで、観客を賛嘆させる。だから優れたスポーツ選手の妙技を見ているような痛快さが味わえる。
トムも映画も全速力!!!
昨年特大のヒットを放ったトム・クルーズが次に投入してくるのは大ヒットスパイアクションシリーズ最新作。並びとしては盤石と言って良いでしょう。映画では最初から最後までトム(=イーサン)も物語も全速力で駆け抜けます。トム・クルーズは求められているものがちゃんと分かっていて、さらにそれを上回ってきてくれますね。2時間43分という長尺を全く感じさせない、クリストファー・マッカリー監督のハイテンポな作劇もお見事の一言です。早くもPART2が見たくて仕方がないです。そしてメインテーマの偉大さを再認識しました。
アクション映画に慣れた脳の予想を今回も軽々と裏切ってくる
すでに予告などで今回も前人未到アクションが確約されていたが、それを上回るシーンも用意され、しかもツボを心得た見せ方。アクション映画に目が慣れた身としても呆れるほどの興奮と臨場感、カタルシスに浸ってしまった。
事件の背景説明のセリフ応酬がややもたつくも、2時間43分の体感時間は極めて短い。とはいえ、同等の満腹感ということで、デ・パルマの1作目のコンパクトさを改めて評価したくなる。
要所のシーンから、AIに対する人間の反骨心、つまりアナログの再評価というテーマが浮上する。自力で限界の肉体芸に挑み、その姿の上映を劇場の大スクリーンにこだわるトム・クルーズのポリシーが、このテーマとリンクして感慨深い。
シリーズ最長尺を感じさせないスピード感とボリューム感!
自らの意思を持った人工知能の脅威から人類を守るべく、イーサン・ハントと仲間たちが世界を駆け巡るシリーズ最新作。いやあ、2時間43分という長尺があっという間に感じられるほどのスピード感とボリューム感!恐らくシリーズ中で最も荒唐無稽な脚本には賛否あると思うが、しかし見せ場に次ぐ見せ場で全く飽きさせない。中でも終盤の特急列車アクションは、バスター・キートンばりの超絶スタントが満載だ。『大脱走』オマージュにもニンマリ。2部構成の前編ながら、物語に一応の決着をつけたのも賢明である。また、ローマのスペイン階段でのカースタントなど「ワイスピ10」と共通する要素も、ただの偶然とはいえ興味深いところだ。