クリード 過去の逆襲 (2023):映画短評
クリード 過去の逆襲 (2023)ライター6人の平均評価: 3.7
人生の明暗を分けた男たちによる宿命の対決
選手生活にピリオドを打ったボクシング王者クリードの前に、刑務所から出たばかりの幼馴染デイムが立ちはだかる。共に孤児院の劣悪な環境で育ち、どちらもボクシングの才能に恵まれながら、しかし全く対照的な人生を歩んだ男たちの宿命的な対決。世の中には個人の力だけではどうしようもないことがあり、人生は必ずしも平等ではない。幸運な出会いに恵まれたクリード、貧乏くじを引かされたデイム。おのずと前者は後者に負い目を抱え、後者は前者に恨みを募らせる。物語の着眼点は良い。それだけに、技巧が鼻につくマイケル・B・ジョーダンの演出が、人生の真理を描く物語からリアリズムを削いでしまったことは惜しまれる。
ロッキー不在でも“戦える”ことを証明
“主演が監督を兼任する”ところまで、『ロッキー』シリーズの魂を受け継いでくれたことは嬉しいが、やはりスタローン不在となると、モノ足りないのは事実。逃げられない過去との対峙を描いた展開は、『ドリームプラン』の脚本家によるもので、いろいろと粗さが目立ち、前2作に比べて劣る印象も……。ただ、それを引っ張るのはジョナサン・メジャース演じるデイムの前作ヴィクター・ドラゴを超える宿敵っぷりだ。さらに、「はじめの一歩」な試合シーンだけでなく、「NARUTO」なシチュエーションなど、アニメ的演出に高まるのは事実であり、次作あたりで愛娘アマーラによるガールファイトが観れそうな期待を込めて、★おまけ。
スタローン=ロッキーとの完全なる決別で演出も別方向へ
全体の構成や、もはや伝統芸といえる対戦両者の“虎の穴”特訓シーンも、「ロッキー」時代からのシリーズの魅力を受け継ぎつつ、肝となるリング上の闘いの演出は今回かなりスタイリッシュ。マイケル・B・ジョーダンが監督として大好きな日本のアニメのテイストも加味して進化させた印象。その分、「ロッキー」的な泥臭さ、怒涛の盛り上がりは薄味か。この方向性、スタローンの画面上の不在と無縁ではないかも。
旧友で宿敵となる複雑なデイムを演じたジョナサン・メジャースは、肉体の圧倒力はもちろん、アドニスとの久々の再会シーンから、屈折感、悲哀を最高レベルで表現。私生活のゴタゴタが今後のキャリアに影響しないことを祈るのみだ。
向き合いたくない過去と戦え
誰にでも向き合いたくない過去は一つや二つあるだろう。事件や事故、何かから逃げ出してしまったこと、仲間を裏切ってしまったこと……。引退したアドニス・クリードは地位も名誉も巨大な家も愛する家族も仲間も得て、まさに人生“上がり”状態。そこに立ち塞がったのが、向き合いたくない過去そのもののような地元の怖いパイセン、デイミアンだった。『ロッキー』シリーズのオリジナルキャストは出演していないが、『ロッキー』や『ロッキー3』などを下敷きにしたストーリーはまぎれもなく『ロッキー』。満を持して流れるあの曲には落涙必至。人生の物語でもありスポーツエンタテイメントでもある内容を116分にまとめたテンポの良さも◎。
マイケル・B・ジョーダン自身が"戦い"を演出する
主演のマイケル・B・ジョーダンが本作で初の監督業に挑んだのは、"戦う"という状態をこのような形で描きたかったからではないか。試合中や、試合のリングに向かって進む時、主人公の主観映像になる場面があり、彼がその瞬間に何に注意を向けているのかが分かり、彼の意識に浮かんだことが推測される。この演出により、見ているこちらと主人公の気持ちがシンクロして、主人公の体内で興奮のため高まっていくアドレナリンの濃度にまで、こちらの濃度が反応してしまう。
ジョナサン・メジャース演じる今回の敵キャラが、ただのイヤなヤツではないのも魅力。メジャースが、征服者カーンを演じた時とはまた別の不敵さと迫力を漂わせている。
遂に独り立ち
”クリード3部作”の完結篇にして、マイケル・B・ジョーダンの監督デビュー作、さらにスタローン(=ロッキー)が登場しないという完全な”アドニス・クリード”の物語となりました。ちょっとお騒がせな存在になっているジョナサン・メジャースもしっかりと体を作ってきていますし、複雑な動機にも説得力を持たせています。『ロッキー』のスピンオフとして始まったこのシリーズも、3作を経て遂に独り立ちと言った感じですね。ラストファイトは今までにない独特な見せ方でした。それでも一瞬あのテーマが流れるお約束もあります。