ザ・クリエイター/創造者 (2023):映画短評
ザ・クリエイター/創造者 (2023)ライター6人の平均評価: 4.2
『ローグ・ワン~』の熱を再び、そしてその先へ!
『ローグ・ワン~』以来7年ぶりのG・エドワーズの新作ということで期待していたが、それにたがわぬ内容。
進化したAIの受容をめぐる東西世界の対立。そんな近未来シミュレーションのち密さに加え、舞台となるニューアジアのビジュアルの作り込みも素晴らしく、どっぷりとSF世界に没入できる。『ローグ・ワン』組のスタッフも多数参加しているが、物語的にも同作との類似点を多く見て取れた。
もちろん、新味もある。主人公の失われた恋をベースにした喪失と追求のドラマは、『ローグ・ワン』以上にエモーショナル。人間味の深みに味わいがあり、SFとの巧みな融合に唸った。泣ける!
J・D・ワシントン版『ゴールデン・チャイルド』
追手から逃れながらも、ロマンチックなロードムービー展開は、デビュー作『モンスターズ/地球外生命体』まんまなので、明らかに『ゴジラ』『スター・ウォーズ』経たギャレス・エドワーズ監督が原点回帰! それなりの予算で、とんでもないヴィジュアルを生み出すコスパの良さはさすがで、東南アジアを舞台にした設定も興味深い。ただ、ベトナム戦争や軍事批判など、裏テーマもありながら、どこか薄っぺらいのは事実であり、人類存亡のカギを握る子どものキャラに関しては、『ゴールデン・チャイルド』の影がちらつく。いつジョン・デヴィッド・ワシントンがボケるか気になるほどだが、渡辺謙の活躍も想定内に終わっている。
監督こそがクリエイター
今のハリウッドにおいてオリジナルのSFエピックを創り上げられる監督が何人いるだろうかと改めて考えさせられた一本。ギャレス・エドワーズは生粋のSFの人で、まさに本領発揮と言ったところ、この作品の前に大きなフランチャイズに参加して”SF大作のノウハウ”を身に着けたのも大きいでしょう。ジョン・デヴィッド・ワシントンを筆頭にSFとの相性のいいキャストがいい味を出しています。渡辺謙もちょっと久しぶりのハリウッド作品ですが、余裕すら感じさせる演技でした。可能な限り大きなスクリーン、画と音の良いシアターで是非、体感してください。
AIというタイムリーなテーマに独自の視点で迫る
ハリウッドの俳優と脚本家がストライキを起こした今年、AIというテーマはこれまで以上にタイムリー。だが、ギャレス・エドワーズの視点は独特で、共感できるかどうかは人によるだろう。ストーリーはオリジナルながら、いくつかの映画やシリーズを思わせもする。ビジュアルはすばらしい。予算は8,000万ドルとメジャースタジオの娯楽作としては多くないが、その倍くらいかけたように見える。SFにも毎回リアリティを持ち込むエドワーズが作り上げたこの世界には、近未来でありながらピカピカした非現実さがなく、実際にそこに人々が住んできた雰囲気がある。ジョン・デビッド・ワシントンとマデリン・ユナ・ヴォイルズの相性はばっちり。
飽和するAI映画の中でも、これは特別。視覚だけでも最上の喜び
AIと人間の関係を描く作品はここ数年、急増中だが、人間が悪/AIが善という構図で、これほど感情移入させる物語は珍しい。その裏には、かつてのベトナム戦争、現在の世界情勢への皮肉、批判が強烈に込められ、ここまで自国に“痛い”作品を作れるアメリカ映画、逆にスゴい。
日本も出てくる約50年後の未来風景はアイテムや生活空間、施設のデザイン、“模造人間”のビジュアルなどにSF映画を愛でる楽しみが充満。変わらないもの/激変したもののブレンド具合もリアル。
映像に目を奪われ続け、鋭くテーマを突きつけ、心を揺さぶるという意味で映画芸術の見本。ギャレス・エドワーズ、間違いなく現代最高の監督であることを証明した。
東南アジア系近未来世界を体感させる
東南アジアの豊かな自然と伝統と超進化型AIが共存する近未来世界。そういう世界の在り方を目の前に提示し、多様性の共存を問いかけること。それがこの映画でギャレス・エドワーズ監督がやろうとしたことだろう。
その世界はデザイン先行ではなく、実際にタイ、カンボジア、ネパールなどで撮影された映像を元に創られて不思議な手触りを持ち、斬新なのに懐かしい。ガジェットの数々は、言葉による説明ではなく、その形自体で直感的な理解を呼ぶ。そして、面食らうほどロマンチック。ゴジラとスター・ウォーズを経た監督が、初監督作『モンスターズ/地球外生命体』同様のオリジナル作に立ち戻り、彼本来の持ち味を再認識させてくれる。