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イノセンツ (2021):映画短評

イノセンツ (2021)

2023年7月28日公開 117分

イノセンツ
(C) 2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES (C) Mer Film

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.1

轟 夕起夫

子供たちを巧みに動かした、この監督もサイキックの持ち主か!?

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

始まったらもう、五感を開いて、食い入るように推移を見つめるほかない映画。あるいは、徹底して「静寂」であることが意識を終始張り詰めさせ、もしかするとそれは、いろんな音色音像が重なり混ざりあったがゆえの「サイレント状態」なのかもしれぬ――と思わせる、そんな多声的な「静寂」映画。

ノルウェーの郊外の団地が舞台で、分かりやすくあの傑作漫画『童夢』にインスパイアされているとはいえ、こんな映像化はそうそう出来やしない。音響デザインも素晴らしく、エスキル・フォクト監督、やるね。シャイン(超能力)を持った子供たちの(まだ未分化な)論理と感性がサイキックパワーに変換されていき、エキサイトな時空間を構築する!

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

『AKIRA』実写化の最適任者は彼かも知れない。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

なんて恐ろしい映画なんだ。昔から子供が大きな位置を占める恐怖映画の秀作は結構あるが、これ見よがしに怖さを煽ることなく、しかし観ている者の心に深いトラウマを刻みつける不気味な作品はそうないだろう。同じ団地に住む少年少女4人の友情が次第に歪みを見せ、子供ならではの凶暴さ、邪悪さを露わにしていくのであるが、それがサイキック・バトルという形を取るところがミソ。日本人ならすぐに判るが、全体に大友克洋「童夢」の影響に溢れている。あの息子トリアーの脚本的相棒の監督作だけど、彼もやっぱこっちの人だったのね。各種打楽器と弦楽の静謐にして不安に満ちた音響、4人それぞれの演技の凄まじさも特筆もの。

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猿渡 由紀

子役たちからここまでの演技を引き出した演出力に感心

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

9歳の少女のかわいらしいアップが映ったかと思うと、次に彼女は横に座っている重度の自閉症の姉をつねる。そんなふうに最初のシーンから無邪気な子供が持つ意地悪な側面を匂わせるこの映画は、話が進むに従ってどんどん残酷さを増し、やがて手に負えない状況になる(個人的には話が本番に入る前のふたりの子供の行為が一番キツかったが)。夏休み中で人が少ない外の情景、遅い時間でもまだ明るさの残る空、しばしば映される無機質な団地の外観なども、観客を常に不穏な気持ちにさせる。ひと夏の出来事を描く映画としては、かなりユニーク。何よりも、子役たちからここまでの演技を引き出した演出力に感心。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

無邪気で純粋で残酷な子供たちのサイキック・バトル

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 アイスランドの『LAMB/ラム』やフィンランドの『ハッチング―孵化―』に続く、北欧発の不条理SFホラー。ノルウェーのどこにでもある平凡な団地で、それぞれ複雑な境遇に置かれた4人の幼い子供たちが超能力に目覚め、やがて大人の知らないところで熾烈なサイキック・バトルが繰り広げられていく。まだ物事の善悪をきちんと判別できず、純粋であるがゆえに残酷な年齢の子供たち。そんな彼らの無邪気な戯れが、やがて殺し合いへと発展していく恐ろしさ。彼らがなぜ超能力を得たのかも分からなければ、その超能力自体も周囲に気付かれにくいささやかなものなのだが、だからこそリアルで説得力がある。キッズ・ホラーの新たな秀作!

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平沢 薫

透明で純度の高い、子供たちだけの世界

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ノルウェーの郊外にある巨大な団地。そこで出会った、超能力を持つ7歳から11歳の子供たち。彼らは、ただ自分の行為の及ぼす影響を考えずに行動するだけなのだが、それが恐ろしい事態を引き起こしてしまう。

 この年齢の子供たちには、彼らだけの論理と価値観で構築された世界があり、それを子供は共有できるが、大人には絶対に理解することが出来ない。子供たちはそれを知っているので、大人にはその世界のことを明かさない。映画は、そんなこの年齢の子供たちが生きる世界を、北欧の明るく透明な光の中に鮮やかに描き出す。画面には何度も彼らの瞳が大きく映し出され、その度に、彼らが見ているもの、感じていることが伝わってくる。

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森 直人

子供だけが感知できる世界のパワーと残酷

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

エスキル・フォクト監督自身が明言するように、ベースは大友克洋の『童夢』。だがド派手な破壊やアクションを排し、ミニマムな設計で「子供の世界」のサイキックホラーを描き切ったことに驚いた(『ミツバチのささやき』や『ポネット』も参照したらしい)。ノルウェー郊外の山の上にあるマンモス団地の広大な空間もそれを強化しており、大人の知らないところで何が起きても判りにくい。

4人の子供のうち唯一の男の子ベンはイノセンスゆえの残虐性が最も出た存在。超能力=ギフトを制御できない怒りに乗っ取られるのはまさにヴィラン的公式で、『魔太郎がくる!!』ばりの威力にエスカレート。団地が闘技場になる対決まで見応えたっぷり。

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相馬 学

どこにでもある団地の、恐るべき子どもたち

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 大友克洋のコミック『童夢』から影響を受けたと監督は語るが、なるほど。団地と子ども、サイキックバトルという同作の要素を結び付けながら、苛烈なドラマを展開させる。

 メインとなる子ども4人は、それぞれに異なるイノセンスを持っており、他人を思いやる優しい子もいれば、無垢な残酷さに支配され、命に対する感受性を失っていく子もいる。それぞれの母親との関係の違いも面白く、考えれば考えるほど深読みできる。

 『ブラインド 視線のエロス』の監督というより、今やヨアキム・トリアー作品の脚本家という方が通りの良いE・フォクトのイイ仕事。ただし、愛猫家の方は鑑賞注意。

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斉藤 博昭

子供たちは無垢(イノセント)だからこそ強く、恐ろしい

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

大人になれば常識やモラルに縛られ、自制心も身につける。でも子供は何も考えず、邪悪な行動もやってしまう。一方で、ただの「影」がモンスターか何かに見えて恐怖を抱いてしまうのも子供ならでは。そんな感覚がこの映画のスタートポイントになっており、子供たちの無邪気さが積み重なり、思わず叫び声を上げたくなる衝撃描写もあったりと、挑発的展開に心を掴まれる印象。
舞台が「団地」というのも効果的で、別々の家庭で暮らす子供たちの繋がりが、距離感も含めてビジュアル的にわかりやすい。
『ぼくのエリ』『ボーダー』『ミッドサマー』などの流れを感じさせる、北欧独特の、残酷さとクールな味わい、その絶妙なブレンドは本作でも健在。

この短評にはネタバレを含んでいます
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