ボーはおそれている (2023):映画短評
ボーはおそれている (2023)ライター6人の平均評価: 3.7
ツッコミながら観たい大災難コメディ
たった7分短編を179分に膨らませる根性もスゴいが、世間がホラーを望んでいるのに、「家族とは、終わらない義務感である」と語るアリ・アスター監督なりのホームコメディを撮る肝っ玉の据わりっぷりもスゴい。ざっくり4部構成の大災難ロードムービーの中、演劇集団と出会う3章目あたりから、「何を観せられているのか?」分からなくなり、『ヘレディタリー/継承』でおなじみ“屋根裏部屋”が出てくる4章の展開に絶句。冒頭のロゴだけでなく、劇中にもちょいちょい登場する架空の企業「MW」グループが大きなカギとなっており、いわゆる謎解きにもなっているが、基本はいちいちツッコミながら観たい怪作である。
里帰りという名の地獄めぐり
アリ・アスター監督の最新作で主演がホアキン・フェニックスということで、見ないわけにはいかない一本。結果、母の急な死を受けて里帰りをしようとする男の”不安”を具現化したような映画となっていました。3時間に渡って”人の心の中にある不安”を見続けるのはかなり疲れました。異色のアニメーション『オオカミの家』のクリエイターコンビが加わったアニメーションパートが巧いアクセントになっていたと思います。これまでホラー映画を連作してきたアリ・アスター監督はこのタイミングでブラックファンタジーに舵を切ってきました。次は果たしてどのようなジャンルを切り拓くのでしょうか?
主人公と一緒に地獄めぐりする2時間59分
主人公と一緒に旅をしながら、目の前でどんどん変わっていく状況に身を委ね、悪夢のようなのに笑えもする、さまざまなタイプの地獄をたっぷり味わう2時間59分。中でも、主人公が森の中で奇妙な演劇集団に遭遇し、彼らの舞台に自分を重ねてしまった時のアニメ映像は、ストップモーションアニメ『オオカミの家』の監督コンビが参加しており、眩暈がおさまらない。映し出されるものはすべて、主人公の心情を反映した非現実的なトンデモない光景で、そのせいで監督の個人的な感情を描いた作品にも見える。この監督が『ヘレディタリー/継承』でも描いた一筋縄ではいかない親子関係が、本作では別の視点からも描かれて、その変化も興味深い。
毒親育ちの生き地獄を描くシュールなブラック・コメディ
愛情の名を借りた母親の支配欲に縛り付けられ、自分では何も決められない大人となった自己肯定感ゼロの童貞中年男性ボーが、不可解な死を遂げた母親の葬儀に参列すべく実家へ戻ろうとするものの、その行く手に次々と奇妙な障害が立ちはだかっていく。「機能不全に陥った家族」「家族に継承されるトラウマ」というデビューから一貫したテーマを掲げつつ、毒親育ちの生き地獄をシュールでグロテスクなブラック・コメディとして描いたアリ・アスター監督の最新作。ストーリー自体はアリ・アスター史上最大級に難解でカオスだが、しかし言わんとすることは最も分かりやすい。そういう意味で「得体の知れなさ」が感じられないのは物足りない点かも。
熱い支持の前2作より、考察する喜びが大きい
現実と、主人公の妄想・幻覚・夢の線引きが不可能。悪夢的なイメージが、ものすごい勢いと唐突さ、笑いを誘う描写も込みで繰り出され、しかも3時間の長尺なので、かなり体力を要する作品。そのわりにストーリーはシンプルなので、映像や演技のハイテンションとの異常なバランス感覚に浸っていく。
アリ・アスター前2作は、本作に比べれば、いかにすんなり入り込めたかを痛感。その分、今回は観る人の解釈や考察が試されることに。
不安やトラウマ、不条理な仕打ちに苛まれまくるホアキンの怪演はある程度、想定内。キャストでは母親役でブロードウェイの大スター、パティ・ルポーンの短い登場ながら、無敵に場をさらう支配力に圧倒された。
シュール過ぎて目が離せない、3時間の悪夢
『ミッドサマー』の高評価を受けて、アリ・アスター監督が手がけた新作は約3時間の大作。長尺だが、終始観客を安心させない不穏な快作でもある。
精神に問題を抱える不安症の主人公ボーの妄想をそのままビジュアル化したような謎世界は、現実と幻覚の境界線に観客を立たせる。劇中劇の幻想性も効果的で、観ているこちらも感覚がマヒして、ボーと化していく。
アスターの前2作でも重要な要素となっていた母親の存在の重さは、本作では物語の幹として機能。驚がくのクライマックスでは、これまで見てきたものや、受け止めてきた事実がさらに怪しくなる。居心地の悪さを覚悟して観るべし。