憐れみの3章 (2024):映画短評
憐れみの3章 (2024)ライター3人の平均評価: 3.7
監督の少々ねじれたユーモア感覚を再認識
原題の Kinds of Kindness 通り、親切のさまざまな種類が描かれるが、ある人物による親切は、別の人物にとっては迷惑でしかない。この監督が『ロブスター』『聖なる鹿殺し』の監督でもあり、そこでも登場人物たちが風変わりな苦境に陥ったことを思い出させる。出来事は悲惨なのに、少々ねじれたユーモア感覚に満ちているのも共通で、やはりこれが監督本来の持ち味か。
と思いつつしかし、ストーリーがどこへ行きつくのか、どう関連するのか気になって、最後まで物語に引き込まれてしまう。ジェシー・プレモンスの微妙な表情に圧倒される。エマ・ストーンの身体が意思とは別に奇妙なダンスを踊る様子から目が離せない。
直近2作がわかりやす過ぎた? 原点回帰の突飛感
オスカー作品賞候補になった前2作は物語、テーマとも受け取りやすい部分があったランティモスだが、これは複雑怪奇な語り口で、観る者を置き去りにすることも辞さず、ユニークなスタイル&演出を貫いたところが潔し!
3つのパートで、共通キャストがそれぞれ別の役を演じることで、無意識レベルでリンクするという離れ技は、かつてない映画的快感(俳優も演じ甲斐があるだろう)。そしてつねに背後に漂う“不穏さ”。挑発的な描写の数々と、聴き心地の良い音楽のアンバランスな魅力…。ひたすら独自の世界に引きずり込むのだが、一方でストーリーを“楽しむ”には、それなりの分析力、覚悟が要求される。ゆえに主観的には星2、客観的に星4。
今のヨルゴス・ランティモスは止められない
映画祭に出せば必ずと言っていいほど、何かしらの賞を受賞し。公開されればアート作品としては十分なほどのヒットを記録しと。目下だれも止められない感のあるヨルゴス・ランティモス監督最新作。かなり癖のある内容の中編3本のアンソロージーなんて、普通なら通りそうもない企画ですが、監督の実績と勢い、そして集結する豪華キャストのおかげですんなり成り立ってしまいました。とは言え前作『哀れなるものたち』からわずか1年ほどのスパンでこれだけの濃い強い映画を作ってこられると何も言えなくなりますね。