ドリーム・シナリオ (2023):映画短評
ドリーム・シナリオ (2023)ライター5人の平均評価: 3.6
A24がニコケイを調理すると、こうなる!
一歩間違えると、『マンディ』『カラー・アウト・オブ・スペース』のスペクター・ヴィジョンの作品ばりにトンデモな仕上がりになる題材ではあるが、そこはアリ・アスター×A24印。ブラックコメディとしての軸はブレず、ヤバめな描写は寸止め、A24版『エターナル・サンシャイン』な展開になっていく、安心・安全のクオリティだ。ゴールデングローブの候補にもなった、ちょいギレなニコラス・ケイジの好演もあり、ネットミーム発信の作品としても、『This Man』はもちろん、『MEN 同じ顔の男たち』よりも十分に楽しめる。個人的には、マイケル・セラの使い方やトーキングヘッズが見事な伏線になっているのがツボ!
興味深い要素たっぷりの映画をケイジが支える
アイデアは非常にユニーク。一見穏やかながら、心の中に欲求不満や嫉妬を抱えている主人公ポール・マシューズのキャラクターも、とても面白い。ネットで突然有名になること、それが何につながるのかなど、現代社会の状況にも触れる。そうやってどんどん引き込むのだが、結局それらの興味深い要素をどうしていいかわからなかったようで、最後はやや肩透かしをくらう。とは言え、前作「シック・オブ・マイセルフ」で見せたクリストファー・ボルグリ監督のダークなユーモアは健在だし(ただし前作よりはマイルド)、彼とケイジの組み合わせは特別。この映画を支えているとも言えるケイジを見るだけでも、チェックする価値あり。
奇妙な夢が次々に出現して目が離せない
普通の中年男ポールが、ある日突然、見知らぬ多数の人々の夢の中に登場するようになってしまうーーーこの設定のユニークさ、大胆な発想が、何より魅力。監督・脚本は『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ。暗喩は分かりやすく、一種の風刺ドラマなのだが、そうであることをさておきたくなるほど、さまざまな夢の情景がどれも風変わりで不穏なのに少々ユーモラスな気配もあって面白い。次はいったいどんな夢が出てくるのかと、続きが見たくなる。
そんな物語の主人公を演じるニコラス・ケイジも適役。何かと私生活が話題になりがちなこの俳優が、情景ごとにさまざまな顔を見せ、芸達者ぶりを披露してくれる。
同じ顔のニコラス・ケイジたちがやばすぎ!
快作。SNS時代の承認欲求の闇と怪を抉り出した『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ監督が、「名声/炎上」という主題を視覚的な面白さに繋げて2020sのカフカ的不条理コメディを放った。
質を押し上げたのはN・ケイジの個人力がやはり大きい。A24では『MEN 同じ顔の男たち』を連想し、YMO『増殖』も想起するが、補助線を引きたいのはケイジが双子の兄弟(チャーリー・カウフマン&架空の弟)を一人二役で演じた『アダプテーション』。ペルソナや自己同一性を巡る混乱の悲喜劇に彼の見た目も演技力も最高にハマる。特に哀愁の表情が抜群。『ストップ・メイキング・センス』ネタには泣き笑い。
「ニコケイ最強説」を大いに納得させられる怪作
他人の夢に次々と現れる主人公は、奇怪な夢をさらに掻き乱す存在となる。なので演じるニコラス・ケイジは否が応でも怪演を迫られるのだが、シチュエーション的に暴走は必然。その分、平常なはずの現実シーンも違和感アリアリとなり、つまり全編にニコケイの持ち味が最大限に生かされた、ファンには御馳走のような一作。
突発的に驚かせるシーンが多数用意されるのでサスペンススリラーの味わいも濃厚だが、要所でオフビートなコメディのノリも挿入。哲学的テーマ、ヒリつく人間ドラマも経て、クライマックスの意外な流れまで、A24作品らしい“予想の斜め上”な仕上がりになっている。
そして誰もが、自分がみた夢を解析したくなる…はず!?