ADVERTISEMENT

オオカミの家 (2018):映画短評

オオカミの家 (2018)

2023年8月19日公開 74分

オオカミの家
(C) Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

轟 夕起夫

カルト教団作成の洗脳映画という設定がまたエグい

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

一筆書きの夢魔的なストップモーション・アニメに折伏されてしまった。突飛な喩えなのを承知で記せばコレ、かのビートルズのヤバいミュジーク・コンクレート「レボリューション9」に感化されてチリの作家がこの映画を作った……としても信じる人がいるかも。「ヘルター・スケルター」の歌詞をハルマゲドンの予言と曲解し、妄想に駆られて凶行に及んだカルト指導者チャールズ・マンソンのように。

そうしたヘンな勘違いをしないためにも、Netflixオリジナルドキュメンタリー『コロニア・ディグニダ:チリに隠された洗脳と拷問の楽園』(21)は本作のバックボーンを理解するための必見の教材。あわせて観て、打ちのめされたい。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

見てはいけないものを見てしまったトラウマ感。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

よくもここまで禍々しいイメージを紡ぎ続けられるものだ。コロニアというチリに実在したコミューンについて映画内で詳しく語られることもないのだが、恐怖と抑圧に満ちた精神状態をここまで不気味にしかも、ストップモーションというとてつもない作業量のかかる手法によって、しかもワンカットで描いた映画はかつて無い。とにかくメタモルフォーゼの嵐。光の移ろいだけでここまでイメージを広げられるものだろうかとも感心する。敢えて言えばスタレーヴィチやシュヴァンクマイエル、クエイ兄弟やD.リンチの最初期アニメーションを思わせる。併映の『骨』もまた、これにも増して禍々しい作品。秘儀を見てしまったような忌ま忌ましさ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

ストップモーション・アニメの図像学が更新される

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

この驚異のチリ出身の二人組、レオン&コシーニャ(共に1980年生)が、ザ・スマイルの「Thin Thing」MVの作者だと知りハッとした。確かに儀式的かつ魔術的、有機的な変容を続ける圧巻の眩惑性。「シュヴァンクマイエルとクエイ兄弟の後継者」というアリ・アスターの言葉に偽りなし!

エマ・ワトソン主演の『コロニア』等でも描かれたコロニア・ディグニタを題材とした怖い寓話『オオカミの家』。発掘された1901年作品とのフェイク設定も効いた同時併映の短篇『骨』。政治風刺とエロス的悦楽を備えた造形美は、奇しくもほぼ同日に日本公開となるクローネンバーグ『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』とも繋がるはずだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

アリ・アスター監督絶賛も納得の不穏さ!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

グリム童話を想像させるタイトルだが、拷問施設「コロニア・ディグニダ」がテーマになっているため、“キモ可愛い”の枠に収まり切れない唯一無二の世界観。二次元と三次元を行き来する手法は、ホラーゲームを体感しているようで、概要だけでも頭に入れておくと、より不穏さ&政治的メッセージが伝わる。一部、実写映像も使われているので完全なアニメではないが、『マッド・ゴッド』に比べると、観客を置いてきぼりにせず、どちらかといえば、ヤン・シュヴァンクマイエル監督作に近い。作者不明の世界初のストップモーション・アニメ(という設定)で同時上映される『骨』も、『狂った一頁』に近い破壊力を感じるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

映し出されるものから目が離せない

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 この物語がある史実を踏まえていることを度外視しても、スクリーンに映し出されていくもの自体が、禍々しく忌まわしく、しかしなぜか惹きつけられて目を離すことができない。その理由のひとつは、映し出されるものが常に変形し続けるからだろう。すべてのものが一つの形に定まらず、形を変え続けるため、音楽の旋律に聞き入るように、その変化を目が追ってしまう。しかも、変化する"形"自体が、物語とは関係なく、それ自体の持つ力で訴えかけてくる。その力は、例えば古代の呪具を見た時に、その形から本能的に感じられる何かに近いのではないか。形自体の持つ力、変形するという動き自体の持つ力、そうした原初的な力を体感できる。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

悪夢的イメージに圧倒されるストップモーション・アニメの怪作

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 南米チリ発のシュールでビザールなストップモーション・アニメ。なるほど、ヤン・シュワンクマイエルやブラザーズ・クエイと比較されるのは大いに納得だろう。アニメーター時代のワレリアン・ボロフチック作品も彷彿とさせる。独裁者ピノチェト大統領の時代に実在したナチ残党のカルト集団コロニア・ディグニダをモデルに、そのコミューンを脱走した少女が不思議な家で子ブタと平和に暮らし始めるも、やがて不安と恐怖に精神を蝕まれてコミューンへの恋しさを募らせる。いわば洗脳されたカルト信者の心象世界を、悪夢的なイメージの洪水で描いた作品。しかも、これが実はコミューンのプロパガンダ映画という設定なのだから皮肉が効いている。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT