ダニエル (2019):映画短評
ダニエル (2019)ライター8人の平均評価: 3.3
「空想の友達」にひねりを加えたユニークな心理ホラー
精神を病んだ母親(メアリー・スチュアート・マスターソン!)に育てられ、自身も周囲に溶け込めないまま孤独を抱えた若者ルークの前に、彼とは正反対の自信に満ち溢れた美青年が現れる。それは、少年時代に封印したはずの空想の友達ダニエルだった…ということで、空想の友達を題材にした映画やドラマは古今東西数あれども、それが単なる「空想」にとどまらないところが本作のユニークな点。内向的なルークの殻を打ち破り、大胆で危険な行動へと導いていくダニエルは、果たしてルークの深層心理に隠された別人格の投影なのか?ルーク役マイルズ・ロビンスの父親ティム・ロビンスが主演した『ジェイコブス・ラダー』からの影響も見逃せない。
恐怖は、主人公が自分に対してもつ不安から来る
「ファイトクラブ」「ジェイコブス・ラダー」「ジョーカー」などを所々で思い出させたりするものの、これはこれでオリジナリティをもったものに仕上がっている。ホラーの要素はビジュアルにもたっぷりだが、それよりもっと心に迫るのは、主人公が自分に対してもつ強い不安。子供の頃に恐ろしい事件を目撃している上、やはり精神を病む母をもつ彼は、自分もいつかとんでもないことをしてしまうのではないかというとてつもない恐怖に駆られているのだ。シュールリアルな見せ方をしつつ、心の病を抱える人の内面に向き合おうとする、野心的かつクリエイティブな作品といえる。
二世俳優激突の『危険な遊び』
近年、世界中で量産されているイマジナリー・フレンドものだが、本作の製作会社スペクターヴィジョンを率いるイライジャ・ウッドがマコーレー・カルキンと共演した『危険な遊び』の大学生版として観ると、妙に興味深い。ヒッチコックや『パンドラの箱』など、古典のオマージュもありつつ、まさかの超展開は賛否あってしかるべき、“安定の”スペクターヴィジョン。タイラー・ダーデンやジョーカーを意識したカンニング描写のシュワ息子に、『ジェイコブス・ラダー』(これもカルキン映画!)のときの父親ばりに闇堕ちするマイルズ・ロビンズの組み合わせも興味深く、ネタバレのようで、そうじゃない原題も効いている。
「個」と「孤独」の狭間で弱った心が闇を生む
子どもは無邪気、では済まない不穏な冒頭から最後まで心中穏やかでいられないサイコホラーだ。両親の不仲と母親のメルトダウンがのしかかった幼い少年がイマジナリー・フレンドを作るのは防衛本能の一種と理解できるが、その親友ダニエルが暴走し始めるのが恐ろしい。ダニエルのカリスマ的魅力があれば違法行為OKとするメンタリティと、彼が体現するマチズモはまさに現代アメリカの闇に通じるものがある。寛容不足の社会で自分らしく生きるのは難しいが、ルークの心の揺れを見て、「個」を貫いて「孤独」を感じる覚悟も必要と思った。2世スターという肩書きは重荷だろうが、主演のM・ロビンス&P・シュワルツェネッガーが好演している。
新世代ホラーの才能に注目!
低予算スリラーのジャンルに意欲的に切り込んで久しいE・ウッドが製作。若かったら自分で演じていたであろう、内向的な若者の狂気的な内面に踏み込んでいく。
イマジナリー・フレンドはホラーではよく題材にされるが、主人公の内面で完結させず、外へと発展させているのは独特。結果、ドラマは意外性が宿り、悪魔的で底知れない怖さを体感させる。そういう意味で、アフター『ヘレディタリー/継承』の意欲作と評したい。
モーティマー監督は前作『デッド・ガール』と同様に、『ジョーカー』に目配せしつつ現代の若者の孤立に立脚して恐怖奇談を構築。怪演を見せる二人の若い二世スターはもちろん、この俊英のも覚えておこう。
空想上の親友という設定から、もう一段、予想も裏切って怖いかも
『ファイト・クラブ』のように、主人公が頭の中でイメージしたと思われる人物が影響を与える展開は予想どおり。しかしこの映画の場合、空想が、明らかに現実に超不可解な現象で浸食しているようで、妄想だけで片付けられない展開&描写が斬新。悪魔や都市伝説といったホラー的感覚にも襲われる。
「自分だけに見える親友」の関係は、時として友情を超えて濃密なセクシャルな香りを漂わせがちだが、今作の場合、「萌えそうな」瞬間を用意しつつも、醸し出す艶かしさは物足りないかも。そこが希薄ゆえに物語をシンプルに楽しめるのも事実。ともに大スターの息子である両俳優は、親の七光りオーラから意識して距離を置こうとする実直さが健気。
幻想的なブロマンススリラー
ホラー、サスペンス映画の目利きとして信頼度の高いイライジャ・ウッドが製作に名前を連ねた幻想的なサスペンス。二世俳優の主演コンビが思わぬ好演を見せてくれています。ときおり、親を感じさせる演技になるのが楽しいですが、中盤以降はそんなことも忘れて、映画に見入ってしまいました。イマジナリーフレンドものと言えば過去にも多くの作品があり、インスパイアされた作品も浮かぶ時もありますが、それ以上にオリジナリティに溢れた画作りが続き、結果としてとても新鮮なブロマンスものであり、幻想的な作品となりました。発見の嬉しさで☆一つプラスです。
主演男優2人が、それぞれ別の持ち味で競演
"自分にしか見えない秘密の友人"は自分の意識の産物なのか、別の存在なのか、という王道の心理サスペンス。古い書物を巡る会話で正体を暗示するという演出に妙味あり、数場面でのフランシス・ベーコンの絵画をホラー流にアレンジした映像も見ものだが、やはり二世俳優2人に目が行き、どちらも予告編より本編の方が魅力的。ティム・ロビンスとスーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンスは一人の青年の様々な顔を見せ、アーノルド・シュワルツネッガーとマリア・シュライヴァーの息子パトリック・シュワルツェネッガーは「ミッドナイト・サン ~タイヨウのうた~」の好青年役とは真逆のクールな悪役ぶりで、こちらの方が似合うような。