シンデレラ (2015):映画短評
シンデレラ (2015)ライター9人の平均評価: 3.9
これぞ元祖゛ありのまま゛ヒロイン
今何故『シンデレラ』か? と思ったら、日本語字幕で判明。『アナと雪の女王』に続く゛ありのまま゛路線。いや、それを狙ったディズニー商法なのだが、なるほど!と膝を打つ思い。究極の玉の輿物語も時代が変われば見方が変わるで、ありのままの自分に自信を持っていた結果、王子様に見初められた女性というか。お伽話とはいえ、そうした地に足の着いたヒロイン像となったのは、K・ブラナー監督の手腕でもあろう。
しかし一方で、女子憧れの要素をきっちり描いているのも本作の魅力。王子様と夢のようなひとときを過ごすダンスシーンで、舞う度にドレスの衣擦れの音が!女子度の低い筆者ですら胸が高鳴った魅惑のシーンである。
どうせやるなら格調高く、ですか。
王子様ないがしろ路線を突き進んでいたディズニーに突如還ってきた、知性も理性も品格もある超正統派王子様R.マッデン(ルコント『暮れ逢い』)がシンデレラより印象に残る。なんたって一番の見せ場は王子と父王(D.ジャコビ)との品格に満ちた永訣シーンなのだ。『マイティ・ソー』に続いて“このテの話をシェイクスピア調にしてしまう”K.ブラナーの才は際立ってるし、D.フェレッティの美術、S.パウエルの衣装も本気のクオリティ。もっとも「そっちは関知しないからお任せ!」的なスタンスなのか、CG部分はひたすらド派手でキラキラ。それでも魔法が解けカボチャの馬車が元の姿に戻る描写など極めてイマジネーション豊かである。
ビックリするほど、ド直球
おとぎ話のアレンジ・バージョンを次々とヒットさせ、勢いに乗るディズニーが、こんなド直球を放るとは思ってもいなかった。
おなじみの物語を、ヒネらずに実写で映画化。キャラクターは周知のとおりで、物語の点でも驚くような改変はない。そう、目の前では誰もが知っているシンデレラ・ストーリーが繰り広げられるのだ。
かといって退屈することはない。シェイクスピア劇を継承してきたケネス・ブラナーの演出は肝を外さず、ケイト・ブランシェットの憎々しい継母演技にニヤリとさせられ、ゴージャスとしか言いようがない美術やVFXも楽しめた。何より、シンデレラ役の新星リリー・ジェームズの快活なキャラが魅力を放つ。
ふたたび黄金期を迎えたディズニーが、本来の夢と魔法を提示する
かつてシンデレラとは“玉の輿”の代名詞だった。しかしここでは、じっと耐えながら理想の王子を待ち望む受け身のヒロインではない。しかも王子は「アナ雪」的な“無用の長物”ではなく、血が通っている。そんなふたりが惹かれ合う。近年おとぎ話を捻ってひっくり返してきたディズニープリンセスものにとって、この正攻法はかえって新鮮。格差・抑圧を描き、ファンタジーの意義を今一度問い直す。何も世の中が好転し希望に満ちあふれてきたわけじゃない。ふたたび黄金期を迎えたディズニーが、満を持して本来の「夢と魔法」を提示したのだ。吹替版シンデレラ役に歌唱力抜群の高畑充希を当て、エンドソングを歌わせるローカライズも技ありだ。
子供向け童話がゴージャスなラブ・ファンタジーに進化!
シンデレラの物語を寝枕に聞き、リッチな男に見初められる=幸せと考える女性は世界中に!? ぞぞ〜っ。この刷り込みの恐ろしさは別として、本作のシンデレラは「優しさと勇気を忘れない」女性と描かれるので一安心。美貌もいいけど、モラルもね! さらに彼女に惚れる王子が国家存続と愛の狭間で心揺れるのも現代風で人間的。童話よりも魅力が増している。美男美女が会った瞬間に永遠の愛が生まれるなんて荒唐無稽な展開は、今や子供だって信じないからね。製作陣や役者陣、衣装、舞台美術、撮影、特撮による変身シーンとすべてがゴージャスで、ラブ・ファンタジーとして子供から大人まで楽しめるあたりもディズニー映画の王道といえる。
『イントゥ・ザ・ウッズ』後だけに際立つ、王道の良さ
シャーマン兄弟が音楽を手掛けた割に、ディズニー映画でなかったブライアン・フォーブス監督版から、早40年の実写版。ケネス・ブラナー監督だけに、やや意外性も感じるが、そこはシェイクスピア・カンパニー仕込みのクラシカルな演出で、『マイティ・ソー』に続き、高いハードルを難なくクリア。息を呑むほど美しい舞踏会シーンも、カボチャの馬車が元に戻っていくスピード感溢れる疾走シーンも、アニメ版を忠実に再現。そして、幼心に「ちと違うんじゃね?」と思った肉感があったジェマ・クレーブンに比べ、今回のリリー・ジェームズは文句なしにシンデレラだ。ただ、フォーブス版に比べ、音楽がほとんど耳に残らないのはどうかと思う。
原型を崩すことなく進化させた実写版シンデレラ
我々の知っている「シンデレラ」の物語から大きく逸脱していない、という意味で王道的な実写化と言えるかもしれないが、しかしよく見れば実に巧みな現代的アレンジが施されていることに気付くだろう。
周囲の価値観に流されず信念を貫くシンデレラ、そんな彼女に影響され自由な王家のあり方に目覚める王子。古い伝統やしきたり、階級やジェンダーの束縛などから自らを解き放つ若い男女の、瑞々しいロマンスとして仕上げられているのだ。
ヨーロッパの荘厳な歴史絵巻を彷彿とさせる美術セットは、フェリーニ映画でもお馴染みの大御所ダンテ・フェレッティの仕事。お子様向けファンタジーとは一線を画すような、格調高さすら漂わせている。
ディズニーアニメのあの名場面にも挑戦!
おとぎ話の映画化ではなく、ディズニーの名作アニメの実写映画化、という位置付け。そこで、何を更新し、何を継承するかに手腕が問われるわけだが、ケネス・ブラナー監督は、人物の性格設定(とくにヒロイン、王子、義母)を現代仕様に更新し、映像の華麗な色彩を継承した。なので、ドレスの色彩はアニメのような赤、青、黄、緑。だが監督は、そこに実写ならではの素材の上質さ、仕立てのよさを加えて、極彩色だが上質感を失わない独自の華麗な色彩世界を生み出す。
そしてもう一つ、監督が挑んだのは、名作アニメ「美女と野獣」のダンスシーンの実写化。ヒロインの陶酔感にシンクロして映像も踊る、あの名場面を見事に実写化している。
完璧なできばえのディズニー「保守」路線
『アナ雪』以降のニューモードではなく、我々がよく知っているお話そのまんま。ここで提示される自己啓発的な「勝ち組の論理」を改めて目の当たりにすると、鼻息が荒い感じで結構怖かったが(笑)、一本の映画としては「旧モデルの完成形」と呼びたいほど鉄壁のクオリティなのだ!
撮影・美術・衣装すべてが素晴らしく、ケネス・ブラナーの演出も最高。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のクラシック志向とディズニーの王道&伝統の相性が抜群に良く、彼の監督作の中でも頭一つ突き抜けている印象。
オーディションで主演を勝ち取ったL・ジェームズのリアルシンデレラぶりも凄いが、継母役のC・ブランシェット、やっぱり巧すぎ!