ザ・ウォーク (2015):映画短評
ザ・ウォーク (2015)ライター8人の平均評価: 4
「エリーゼのために」が意外なマッチング!
長らく迷走が続いたゼメキスとしては起死回生の一作。地上の束縛をすり抜け、空と一体になる夢に集う「冒険者たち(フランス人の話だしね)」の表情が楽しい。青春の野望、というか無謀ではあるけれど、純粋な歓びのための行為というのがともかく美しいのだ。ただ、一番の問題はすでに『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリの傑作があること。しかもあれはほぼ半分が再現ドラマだったし、今は無きツインタワーへの特殊な感慨含め、感動の本質が同じなのでワリ食った感は否めない。でも恐怖の3D効果含め(僕は高所恐怖症なので)クライマックスでのピースフルな境地にしばし恍惚となる。止めにやってきた警官の絶妙リアクションもね。
バック・トゥ・ザ・1974
成功したから英雄伝になっているが、もしも
失敗していたら?と考えるとゾッとする話だ。これがどれだけ無謀な挑戦か。効果的に3Dを使用した臨場感ありすぎる映像で尚一層強く思う。それが今もこうして語り継がれるのは、大目に対処した警察なり、ビルオーナーなり、拍手を贈った当時のN.Y.市民といった粋な人たちのおかげ。伝説や偉業は一人の力では成し得ないのだということを実感させられる。
そして本作は今は無きワールドトレードセンターへのオマージュを捧げた作品だが、人々が大らかに生活していた古き良き時代への郷愁も感じるのだ。
ニューヨークとツインタワーへの優しいラブレター
おとぎ話のようなドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』のドラマ化は、ファンタジックな香りが充満。まず主人公フィリップの描き方がチャーミングだから、正気の沙汰じゃない彼の行動にも違和感無し。ある意味、妖精っぽい? 観客をチーム・フィリップにする魔法だ。演じるジョセフ・ゴードン=レヴッツは魅力たっぷりで、適役だ。CGで再現したツインタワーを渡るクライマックスの綱渡り映像は高所恐怖症の私にとっては肝が冷える迫力で、心臓に悪い。でも、最後のエピソードには涙。これはニューヨークと911で破壊されたツインタワーへのラブレターだったのだ。優しいテイストもロバート・ゼメキス監督ならではでうれしい限り。
あなたも“共犯者”になれる!?
ドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』のフィリップ・プティを見て失礼ながら、詐欺師のようだが憎めない人との印象を持った。なので美化されたドラマは嫌だなあと思っていたが、それはまったくの杞憂だった。
綱渡りをアートと語る自称芸術家。思いやりのないエゴイスト。“絶対に落ちない”と言い切る自信家の天才。負に思えかねないそれらの要素が魅力に転じるのは、夢の実現のためにひた走る情熱が見て取れるから。
熱に引き寄せられ、プティの元には多くの“共犯者”が集まって来るが、見ていてそのひとりの気分を味わった。もっとも、迫真の俯瞰映像にビビッてしまう高所恐怖症の筆者に、できることは限られているが。
ロバート・ゼメキスの新たな映像革命
ストーリーは一風変わった青春映画だが、もっともベストな上映環境がIMAX‐3Dであることが実証するように、未体験の視覚・音響効果がたまらない。『ロジャー・ラビット』『ポーラ・エクスプレス』に続く、ロバート・ゼメキス監督の映像革命だろう。見せ場はもちろん、お股ヒュン((C)クレしん)になりながら、「もう勘弁して!」と叫びたくなるツインタワー綱渡りパフォーマンス。だが、そこに至るワイヤー張りにかなりの時間を割くリアルさは、監督の本気度を感じ、まるで主人公らと夜を明かして共犯者になった気分に。『ドン・ジョン』では違和感あったジョセフ・ゴードン=レヴィットが、体育会系キャラにしか見えないのも面白い。
前人未到の挑戦と過ぎ去った歳月の重み
1974年にニューヨークのツインタワーを、ワイヤーなしで綱渡りして世間を驚かせたフランス人フィリップ・プティの実話を描く。
やはり、なんといっても終盤の綱渡りシーンが最大の見せ場だろう。男性なら金玉が縮み上がること必至の臨場感。たとえ3Dじゃなくても高所恐怖症の方は要注意だ。必然性を重視した英語と仏語のセリフ配分や、当時のパリとニューヨークの街並みの忠実な再現などからも、ゼメキス監督の本気が伝わる。
そして、同じ目標を分かち合った若者たちのほろ苦いその後と、ツインタワーの残酷な運命を示唆する終幕。春の夜の夢の如き栄光の興奮と輝き、過ぎ去った歳月の重み。そこに監督の真意があるのだろう。
失われつつある狂気へのリスペクトと失われた夢へのレクイエム
もちろん大道芸人プティが、NYワールドトレードセンターのツインタワー間を“歩いた”、めまいを起こさせる3D映像が見せ場だ。違法行為への彼の破滅的な挑戦は、ユーチューバー的な刹那のパフォーマンスとは異なり、アートにも等しい。
ワイヤーを張るための周到な計画の過程で、われわれは高所に魅せられたプティの共犯者になっていく。ツインタワーとは、経済大国アメリカの栄華の象徴だった。その頂上の綱渡りは、危うい「世界制覇」ともいえる。天空を密かに、しかし公然と渡る夢。
この映画体験の真の醍醐味は、直接目に映る映像以上に、失われつつある「狂気」へのリスペクトと、崩落し失われた「夢」へのレクイエムである。
"意識は感動しつつ本能は恐怖する"未知の感覚を体感
3Dの使い方が新鮮。3Dを奥行きではなく高さの表現に用いるのだが、その際にリアルさではなくエンターテインメント性を重視したところが、ゼメキス監督流。高所の恐怖を愉しませてくれる。さらに、主人公が高層ビルの綱渡りの途中で精神的に別のレベルに達する場面があり、それはとても崇高で感動的な境地なので、見ているほうもその心境に共振してしまうのだが、そこは地上411メートルに張られたロープの上なので恐しくもあり、"意識は感動しつつ、本能は恐怖している"という未知の感覚が体感できる。
一人の人間が信念を貫く実話物だが暑苦しくないのは、ジョセフ・ゴードン・レヴィットの軽やかさとゼメキス脚本の功績だろう。