オーシャンズ8 (2018):映画短評
オーシャンズ8 (2018)ライター7人の平均評価: 3.7
男達の泥臭い金庫破りを過去に追いやる、華麗なる女性集団大泥棒
シリーズのリーダー格ジョージ・クルーニーには妹がいた、という笑える接点はともかく、タイムズ・アップの時代を実感させる。『オーシャンズ』女性版という認識は改めた方がいい。男達の一世一代の金庫破りなど泥臭い行為とばかりに、女性達はゴージャスにして鮮やかに決める。会場はメトロポリタン美術館、狙いはメットガラのダイヤの首飾り。銃撃アクションも色仕掛けもないが、アクシデントに見舞われても知略の軌道修正は抜かりない。リーダーであるサンドラ・ブロックのもうひとつの目的は情念に満ちているが、演歌に陥ることもない。標的としての“人気ハリウッド女優”アン・ハサウェイのキャラクター造形が巧みで物語を膨らませる。
かっこいいヒロイン祭、それでOK!
『オーシャンズ』シリーズを踏襲して、その女性版をつくる。そんな試みはシリーズのファンとしては嬉しいかぎり。
“男オーシャンズ”への目配せも嬉しいが、チームの連携や頭脳プレイを密に描き個々のキャラを輝かせる妙もいい。とりわけケイト・ブランシェットのかっこよさが光る。個人的にはアジア系女優アウクワフィナの安藤サクラにも似の個性に引き寄せられた。
女性映画にしたことの特別性は憎き男への復讐がからむ程度で、もう少し情念を見たかった気がしないでもないが、『オーシャンズ』にそれを求めるのはお門違いか。このシリーズらしいソウルジャズ風の音楽も手伝い、とにかく粋でかっこいいヒロインたちが映える。
女性同士の友情が気持ちいい
「オーシャンズ」シリーズなので特殊技能を持つ盗みのプロたちが集結するが、今回はそれが全員女性。計画の舞台は、メトロポリタン美術館のファッションイベント、メットガラ。メンバー8人それぞれが、個性に合わせた華麗なファッションで登場するシーンも楽しめる。そしてストーリーにも、"全員女性"という設定を意識してこうしたのではないかと思われるところがあり、そんな視点から見るのもおもしそうだ。
おそらく女性たちのヴィヴィッドな会話に貢献したのは、監督と共に脚本を手がけた脚本家オリヴィア・ミルチ。彼女の監督・脚本作「エンド・オブ・ハイスクール」同様、女性同士の友情を気持ち良く描いてくれる。
今夏もっとも華やかなチック・フリック
ジョージ・クルーニーもきっとサムズアップした妹映画! 主人公デビーが出所する冒頭で『オーシャンズ11』へオマージュを捧げ、彼女と親友が宝石強盗のために綿密に準備を進める展開もシリーズを踏襲する。ビッチな女優役のA・ハサウェイを含めオスカー女優がずらりと顔を揃えるのは豪華だし、意外にもコミカルなリアーナや旬のアクアフィーナがいい味を出している。見事なチームワークから女優たちが仕事を楽しんでいるのが伝わり、作品にもプラス効果となっている。出席者しかわからないMETガラの内部や華やかなドレスの競演、カルティエのジュエリーと女性ワクワクの要素がぎっしり詰まった、今夏もっとも華やかな女性映画だ。
この作品に期待するべきものは、きっちり備わっている
無謀な犯罪計画と、各メンバーの性格と得意技が存分に生かされ、シリーズの精神を受け継ぐ作り。そこにメットガラがゴージャスな味付けを加え、特別出演のセレブを発見する楽しみもあり、この作品に期待すべきものは揃っている。ただ、冷静に論じれば「設定ありき」で、女性オンリー作戦の部分が新鮮な興奮を喚起するかというと、そこは微妙。ひと昔前なら、「女」を武器にハニートラップなども駆使したかもしれないが、あえて抑えたのは「男だから、女だから」という固定観念を意識的に払拭するようで、潔さを感じる。「男前」なんて形容詞は、もう過去のものだ。『オーシャンズ11』のような美しい余韻はないが、きっちりまとめた仕上がり。
アン・ハサウェイの自虐ネタに天晴!
確かに“女性版”になっただけかもしれないが、そのアレンジは見事だ。なにしろ、オーシャンズの標的にされるアン・ハサウェイに、諸々協力のアナ・ウィンターという組み合わせは、『プラダを着た悪魔』好きならたまらないところ。しかも、ハリウッドの嫌われ者であるハサウェイがダコタ・ファニングに敵意を燃やし、自虐ネタをカマすという遊び心も天晴だ。ケイト・ブランシェット演じるアウトローのルーら、女性キャラが濃すぎるあまり、ジェームズ・コーデンら男性キャラが食われ気味という難点はあるが、トリックを含め、やはりユカイツーカイ。それだけに、夏休み映画の意外な本命に躍り出るかもしれない。
新生チームの“OCEAN'S AND THE CITY”
ラスベガスならぬN.Y.を舞台に、シスターフッド化して蘇った『オーシャンズ』。元々このシリーズはハリウッドに批評的な距離を置くソダーバーグが、21世紀において古典的なケイパームービーを復活させる実験的側面があったと思う。今回はその「メタ伝統」を受け継ぎつつの新機軸。基本は『11』の語り直しだが、なぞっているラインと反転させた箇所の両方あるのが興味深い。
監督がゲイリー・ロスに代わったことでエンタメ度が明快に。ラスタな天才ハッカーに扮するリアーナなどキャラもばっちり。名物のカメオ出演や、バンクシー等の小ネタも面白い。ちなみに“元カレ”の扱いなど宮藤官九郎脚本の『監獄のお姫さま』に似てるよね!?