イエスタデイ (2019):映画短評
イエスタデイ (2019)ライター9人の平均評価: 3.7
名匠が思いつき一発で軽~く書いたような脚本に2時間。
よくこんなワン・アイディアだけで映画を作ったもんだ。パラレル・ワールド的な設定であろうと、マトモにビートルズ以降のポップ・カルチャーを考えればハナから無理だろうに、2時間大胆にも押し通す心根にいささか呆れる出来。明らかにビートルズに思い入れ多大な脚本R.カーティスと、さほど思い入れのないD.ボイルとの差が露骨に表れた感。正直、主役のヒメーシュ・パテルに微塵のカリスマ性も感じないし(凡庸なミュージシャンが異世界では大スターになる、という設定はあるにしても、だ)、マネージャー役リリー・ジェイムズとの関係性もなんのヒネリもない。まあ、素晴らしい歌だけが残ればいい、というメッセージは伝わるけれどね。
ぎこちなさも自由な風に変える、不思議な味わいの逸品
不思議な映画。「ビートルズがいない世界」として、その後に影響を受けた物/者まで失われてるなど、パラレルワールド的楽しさは備える。それでも肝心なポイントが意外にあっさりだったり、どうでもいい箇所をじっくり見せたり、全体の作りがやや「いびつ」。しかし、この「いびつ」さが作品の味わいと化す。ハリウッドメジャー作品なら脚本段階で添削されそうな流れも、自由に突き進むのがワーキングタイトル作品らしい。エド・シーランの、いい意味でのカリスマ性の薄さがドラマに効果的だったり、意外に計算ずくな部分もあり……と、いろいろ御託を並べつつ、ビートルズの曲だけで心地よさは保証。とくにラスト。後味の良さは格別である。
もしも世界からビートルズが消えたなら?
ビートルズのヒット曲のさわりしか流れないけれど、これはD・ボイル監督&R・カーティスからビートルズに当てたラブレター! でもって、ポップ・カルチャーや音楽がいかに我々の人生を彩り豊かにしてくれるかを再確認させてくれる素敵なコメディだ。主役のH・パテルは歌唱力バツグンなだけでなく、コメディ演技も絶妙。でも「おや!」と思わせたのがミュージシャン、E・シーランの好演。主人公がコピー歌手(?)とは知らずに自身の負けを認め、あまつさえ自虐的セリフで締める潔さにリアルな存在ならではの貫禄がにじむ。『GOT』のゲスト出演時のディスに負けず、役者業を続けた根性も買います。
いろんな意味で、リチャード・カーティス節全開!
冴えない男が突如、世間から注目される『ノッティングヒルの恋人』ぽさに、『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』ぽいSF(少し不思議)も加わったラブコメとして、完全に設定勝ち。もちろん、肝心な部分をスルーしたと思えば、強引な展開にもなる、リチャード・カーティス節が全開だ。そのパラレルワールド感は、まさにビートルズへのラブレターであり、“カーティス版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』”な幸福感をもたらしてくれる。これまでになく魅力的なリリー・ジェームズに、完全に助演の立ち位置にいるエド・シーランもいい。ただ、ダニー・ボイル監督作としては、あまりにクセがなさすぎる!
音楽好きならニヤリの小ネタも楽しい
ビートルズが存在しなかった世界で、自分だけがビートルズの曲を知っていることに気づいた青年がいたら---そんな奇想天外な話なのに、気持ちのいいラブストーリーになっているのは「ラブ・アクチャリー」「ノッティングヒルの恋人」の脚本家リチャード・カーティスのせいだろう。加えて、ビートルズのファンもきっと好きになるだろうシーンも盛り込まれている。
英米ポップ音楽ファンなら、ビートルズが存在しないと知った主人公が、それならこのバンドは存在するのかと検索するときのバンドや検索結果、主人公の友人がミュージシャンにウケるマニア向けバンドの例としてあげる名前など、思わずニヤリなオマケも楽しい。
ワーキングタイトル色濃いめの愛すべき恋愛劇
ワーキングタイトルにD・ボイル監督という組み合わせは、英国映画好きには新鮮。ボイル色はキレのある描写に活きているが、ベースはあくまでワーキングタイトルらしいロマンチック・コメディだ。
ビートルズを誰も知らない世界でビートルズの曲を歌って人気スターとなる、しがないソングライターと、そのマネージャーである幼馴染みの女性の関係を縦糸にした物語。R・カーティスの脚本は、ユーモアを含みつつ、ここぞという情感の場面では確実に心の琴線に触れる。心憎いとは、こういうことか。
ロック好きのカーティスだからビートルズの小ネタも的確に押さえている。不世出のバンドに対する敬意も宿り、愛すべき好編となった。
時代を超えた音楽の力、芸術の力を謳いあげる
地球規模で原因不明の大停電が発生。その瞬間に事故で意識を失った無名ミュージシャンが目覚めると、自分以外に誰一人としてビートルズを知らない世界になっていた。これはチャンス!とばかり、ビートルズの名曲を自作と偽ってデビューした主人公は、たちまちスターダムへと上りつめていくのだが…?というわけで、ビートルズの影響下で生まれたものまで存在しない芸の細かさにニヤリ。突飛なコンセプトに依存した作品という印象は否めないし、どこまでもフィールグッドなストーリー展開は賛否もあろうが、しかし偉大な音楽…引いては偉大な芸術は人類共通の財産であり、その輝きは永遠不滅であるというメッセージには強く共感する。
愛こそすべて
“ポスト『ボヘミアン・ラソディ』”は『ロケットマン』ではなく、この『イエスタデイ』でした。
ダニー・ボイル監督らしく国際色豊かで且つ、労働者階級の人々が主人公です(ビートルズがテーマなので当然と言えば当然ですが)。
ビートルズへのラブレターという監督の言葉に嘘偽りなく、誰もが知っているあの曲、この曲がぜいたくに使われます。
ビートルズがこの世から消えたがためにフォロワーと呼ばれる某バンドも誕生していなかったりと、ニヤリとさせられるポイント多数。そして、あの人が登場する“ifの世界”の映画ならではの演出は泣かせます。ラストは思わず声に出して歌いたくなる映画です。
独創性とユーモアたっぷり。ハッピーな気持ちになれる
クイーン、エルトン・ジョンに続いて今度はビートルズかと思うかもしれないが、今作は全然違う。ひとことでいうならロマンチックコメディでフェアリーテール。そこにビートルズの名曲が散りばめられ、その偉大さが語られてもいくのだ。主人公は、20代の今も実家住まいで、バイトをしながら地元で演奏を続けている冴えない男。彼を演じるヒメーシュ・パテルは好感度たっぷりで、見ていて応援せずにはいられない。この役にあえて南アジア系イギリス人をキャストしたことが、映画に新鮮さと独特のリアリティを加えている。助演陣も個性的で、とくにケイト・マッキノンはいつものことながら爆笑させてくれる。