アス (2019):映画短評
アス (2019)ライター9人の平均評価: 3.4
ドッペルゲンガーに会ってはいけないのね
自分と瓜ふたつな人が世の中に3人いる、ドッペルゲンガーを見たら死ぬ、といった都市伝説にインスパイアされたようなホラーだ。デビュー作『ゲット・アウト』同様に物語トーンの定め方や伏線の張り方は丁寧で、これがJ・ピール監督らしさなのだろう。同じ存在であっても運命の転び方で人生そのものが真逆となり、不遇な人々は抱えた怒りを爆発させる機会を待ち望んでいるという設定がものすごく恐ろしい。悲惨な生活を送る黒人の怒りは、アメリカで長らく支配者階層だった白人層だけでなく、中流以上の同胞にも怒りの矛先が向けられるということなのか? SF風味は新鮮だし、先読みしにくい展開も魅力的だ。
「旬」のパワーたぎりまくり!
ジョーダン・ピールの「時代の寵児」感がびんびん伝わる。今回はSFミステリーなどジャンルミックスがさらに強く、『ゲット・アウト』とはまた異なるアプローチだが、不条理コントを基盤とした風刺劇との点では同レベルの濃度と強度に満ち、やはり「いま」にピントが合った破格の傑作だと思う。
『ホームアローン』への言及があるが、むしろハネケ『ファニーゲーム』に近い「厭な味」が絶品。マイケル・ジャクソンやブラック・フラッグのTシャツ、ビーチ・ボーイズやN.W.Aの曲なども確かな“意味と伏線”に繋がっていく。ドッペルゲンガーの驚愕の変奏という点では安里麻里監督の怪作&快作『バイロケーション』をこの隣に置きたい!
アメリカの階級システムを風刺する変化球的ホラー
いわゆるドッペルゲンガーをテーマにした、『ミステリーゾーン』的もしくは『ウルトラQ』的なホラー・ミステリー。ある日突然、自分たちと瓜二つの不気味な家族に自宅を襲撃された一家。そればかりか、周囲の友人たちも次々とドッペルゲンガーに乗っ取られていく。『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』の高度な変化球とも呼べるだろう。オチの凡庸さは惜しまれるものの、しかし物語の背景としてアメリカに歴然とする階級システムへの痛烈な風刺が込められているところは、さすが『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督。「私たち(US)だってアメリカ(US)市民だ」という彼らの言葉に本作の真意がある。
下には下があり、そのまた下もある社会構造の寓話
『ゲット・アウト』のスリルはそのままに、社会性と抽象性をより深めた俊英J・ビールの新たな境地。
少しでも裕福でありたいと願うごく普通の家族の受難劇は、アメリカの現実をまざまざと見せつける。そこにドッペルゲンガー的なホラーのエッセンスが染み渡り、血みどろのバイオレンスによって衝撃度も上がる。
冒頭の“ハンズ・アクロス・アメリカ”をはじめメタファーの要素も多く、『ゲット・アウト』のエンタメ性に比べて呑みこみづらさはあるものの、思考をうながす点では面白く、深掘りのし甲斐がある。まずは上には上があるように下には下があり、深いところにそのまた下もある、そんな社会の現実を受け止めてみて欲しい。
オチ的には弱いが、楽しみ方は多種多様
設定こそ、『ファニーゲーム』『サプライズ』の変化球にも見えるが、そこはインテリすぎるジョーダン・ピール脚本・監督作。やはり、人種・格差・難民問題などのメッセージ性が強く、現代アメリカが抱える闇もハッキリ見えてくる。それとは別に、ドッペルゲンガーものとしても、新種のゾンビものとして楽しむこともできるが、「ミステリー・ゾーン」や「アウター・リミッツ」(日本なら「世にも奇妙な物語」)の一編をアクションシーン多めで、引き延ばした印象も強し。今回は子役も健闘しているが、『ゲットアウト』には及ばず。とりあえず、冒頭に登場するTVモニターから集中することをおススメ。
誰が撮ったとか考えず、純粋に向き合った方がベターかも
「ウルトラセブン」の某名作回もちらつく設定は、どこか古典的ホラーのたたずまい。冒頭の海岸の遊園地という背景からノスタルジーを喚起させ、物語がどう転がっていくのか、観る者を妙なテンションへ導いていく。あまりに恐ろしい「何か」を見た瞬間の、登場人物の言いようのない不安と、立ち向かおうとする正気の狭間。そして仮面の不気味さ。無表情の狂気…。
しかし、映画とは不思議なもの。これ、たとえば「シャマラン監督」という前提で観たら、味のあるホラーとしてもっと素直に楽しめたかも。ジョーダン・ピール監督作として観ると、『ゲット・アウト』の皮肉やブラックな感覚、テーマ性という「幻影」が、嫌でもまとわりついてくる。
まずタイトルからメッセージが伝わってくる
タイトル「US」は、「私たち」であり「USA」の頭二文字。主人公たちが自分たちにそっくりの姿をした人々に正体を尋ねると、彼らは「私たちはアメリカ人だ」と答える。そのように、今の世界の社会問題が描かれていく。と、サスペンス自体を楽しむ前にメッセージが気になってしまうのは、監督・脚本が「ゲット・アウト」のジョーダン・ピールだから、こちらが前作同様のテーマ性を期待してしまうせいでもあるだろう。監督も、それを見越してタイトルをつけたのに違いない。もちろん自分そっくりの何かに遭遇する恐怖はたっぷり。「ゲット・アウト」同様、ヒネリあり。一家の幼い息子がなぜ仮面を被るのか、その理由を考えるのも興味深い。
斜め上を行く極上の逸品
『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督の待望の最新作は自身の存在を根本から揺さぶってくる逸品。
前作がああいう仕掛けだっただけに、色々勘ぐって見られることは避けられない中で、そのさらに斜め上を行く極上の逸品に仕上げてきました。
スカー女優ルピタ・ニョンゴを筆頭にキャストも魅せる。あれこれを散々考え抜いて、それでもアッと言わされる快感を是非。
野心的でオリジナルだが万人を満足させないかも
ホラーというジャンルで画期的なことをやってみせた大傑作「ゲット・アウト」に続いてジョーダン・ピールが送る今作は、さらに野心的。だが、果たして同じくらい効果的かというと少し疑問。「ゲット・アウト」が深刻な社会的問題を扱いつつも、すっきりし、ユーモアもあるエンディングだったのに対し、この終わり方は、論議を呼ぶことはするが、みんなに満足を与えるというのには、やや遠いのだ。それでも、ピールが独自の視点をもつ優れたストーリーテラーであることは、今作で再び証明されている。ルピタ・ニョンゴの名演も見どころで、こんなおいしいシーンをくれるピールと組みたいと願う黒人俳優は、これからも後を絶たないだろう。