ポルトガル、夏の終わり (2019):映画短評
ポルトガル、夏の終わり (2019)ライター7人の平均評価: 3.7
世界遺産の町シントラの美しい景色を存分に堪能
ポルトガルの風光明媚な観光地シントラを舞台に描かれるファミリー・ドラマ。ガンで余命幾ばくもないことを悟った大女優(イザベル・ユペール)が、夏休みを利用して家族や友人をシントラへ呼び寄せる。その目的は、自分がこの世からいなくなる前に家族間の諸問題を解決することなのだが、しかし当然ながら身内とはいえ他人を思い通りに動かせるはずもなく、彼女が思い描いた筋書きとは全く違う方向に物事が進んでいく。監督自身が参考にしたと公言するエリック・ロメールや一時期のウディ・アレンを彷彿とさせるような、どことなく寓話めいた美しくも端正な映画で、結局何事も収まるべきところに収まるというラストもエスプリが効いている。
夏は終わっても、新たな秋が始まる
死期を悟った大物女優フランキーの思惑が複数のドラマを生み、「人生はままならない、だからこそ人は生きる」と思わせる人生賛歌だ。E・ロメール監督を思わせるテイストの群像劇で、さまざまに意味を汲み取れる暗喩めいた台詞が魅力。自身が亡き後の家族や親友の人生を整えようとするフランキーの独善的な計画はディーバのわがまま風だが、「死」を前にした人間の悟り(?)はなんとなく理解できる。I・ユペールが演じると大抵のキャラクターに説得力が加わるしね。ヒロインが愛した男たちがメソメソ系で、女性のタフさが強調される。M・トメイ演じる親友との大人女子トークも素敵。舞台となる街シントラがただもう美しい。
恋、愛、家族とはという事柄を、優しく見つめる大人の映画
実によく考えられ、練られた脚本。最初は「なぜこの人たちが家族なのか?」と思わせておき、話が進むにつれ、少しずつその関係が紐解かれていくのだ。年齢も人種も違うそれぞれの人々もしっかりと構築されており、それぞれの問題、葛藤があって、味がある。すごく大きなことは起こらないのだが、小さな出来事のひとつひとつが、登場人物がどんな人なのかを表現しているのもすばらしい。キャスト全員が優れているが、中でもマリサ・トメイは抜群。フランキーが大女優という設定で、業界物の要素がいい感じに散りばめられているのもプラスだ。恋、愛、家族とは、という事柄を、優しく、同時にちょっと遠くから見つめる大人の物語。
絶妙な公開タイミングとなったバカンス映画
死期迫った有名女優とその家族が中心の話だけに、近年のカトリーヌ・ドヌーヴ作品ぽさが見え隠れするイザベル・ユペール主演作。アイラ・サックス監督作らしく、本作でもマリサ・トメイとグレッグ・キニアらの芸達者が、『スター・ウォーズ』のヘアメイクと撮影監督といった面白キャラを好演。とはいえ、もうひとつの特徴であった軽妙な掛け合いを期待すると、肩透かしを喰らうかもしれない。妙に叙情的かつ淡々としているのは、ほぼ『海辺のポーリーヌ』な義理の孫エピソードに限らず、照明やカメラワークまで、あまりにエリック・ロメール監督リスペクトが強すぎるため。そんなわけで、バカンス映画として観るのがベター。
のんびりと、美しく、少しだけやるせない「理想の終活」
このところ「怪女」の役がやたら目立つイザベル・ユペールが、本来のエレガントなマダムという持ち味をフルに生かし、わずか一日の物語なのに、派手に衣装も替え、プールで泳ぎ、ピアノやダンスも披露。演じるフランキーの職業が俳優なので、どうしたって素顔も重なり…と、ユペール様を愛でる映画となった。三世代の家族関係がなかなか複雑で、元夫は同性への愛を自覚したりと、人種、セクシュアリティの多様性を意識したドラマがじつに今っぽい。
劇的な瞬間は限定的だが観ていて飽きないのは、世界遺産の「ふれあい街歩き」の側面もあるから。そして監督が「小津安二郎の世界を目指した」と語ったように、流れる時間がつねに心地よいから。
記憶にとどめたい、撮影監督フイ・ポーサス!
見どころの一つが世界遺産シントラの町だと分かっていても、想像の遥か上をいく映像美に震える。撮影は、ミゲル・ゴメス監督『熱波』、怪作『鳥類学者』を手掛けたポルトガル出身フイ・ポーサス。エリック・ロメール作品を研究したそうだが、夕日、雨、靄といった自然を生かしたシーンと物語の進行がシンクロしていて、計算され尽くした映像に唸るしかない。脚本も素晴らしい。大御所女優フランキーの呼びかけで、なぜ親戚や友人たちがこの地に集まったのか? イザベル・ユペール様でしか許されない粋な大人のセリフの応酬で徐々にその理由が明かされていく。ラストシーンの美しさも相まって、良質な欧州映画を堪能したと満足することウケアイ。
ポルトガルの避暑地の夏の光に陶酔する
朝の新鮮な光が眩しい。雨の後の緑が瑞々しい。ポルトガルの王族の避暑地として知られる、世界遺産に溢れる町シントラでロケ撮影されているが、有名な遺跡はほとんど画面に登場せず、その土地に住む人々が普段から歩いている場所の数々ーー坂になった迷路のような狭い通り、道のすぐ近くまで迫る林、海の見える丘などが映し出され、そのすべてが美しいのだ。そんな土地で、迫る死を意識したヒロインが、まるで遺品を整理するように周囲の人々を動かそうとするが、彼女の思うようにはいかない。夏の終わりのある1日、朝から日没までの光の変化が静かに映し出されてただただ美しく、ヒロインもその美しさには身を委ねるしかない。