アイス・ロード (2021):映画短評
アイス・ロード (2021)ライター8人の平均評価: 3.4
シンプルな氷上アクションと思ってたら、予想を上回る暴走感へ!
基本は、溶けそうな氷の上をいかに走り抜くかという緊迫アクションドラマ。もちろんその点でも次から次へ難関が訪れ、期待どおりだが、その先にも過激なバトルやピンチがテンコ盛りだし、閉ざされた地下での酸素切れタイムリミットも同時進行するので、つねに何かが起こっている感。散漫になりそうな危なっかしさを、リーアム・ニーソンの安定の無骨っぷりが要所を締める。ニーソン映画らしく展開に無謀な部分もあるが、今回は体力よりも「経験」を生かした苦闘でリアリティをカバーする。
人間関係の不安定さがドラマを急変させるのは、この手の作品で定石。先住民の女性キャラの“おいしい”立ち位置が、作品の味わいを広げるうえで効果的だ。
『恐怖の報酬』×氷上カーアクション!
春も間近のダイヤモンド鉱山で爆発事故が発生。地下に閉じ込められた作業員を一刻も早く救出するため、4人のトラックドライバーたちが湖の氷上を突っ走って機材を届けようとするが、しかし実は爆発事故の裏には恐ろしい陰謀が隠されていた。さながら氷上版『恐怖の報酬』。気温上昇で不安定になった氷の道を巨大トラックが駆け抜けるという緊迫感に、陰謀の黒幕が差し向けた刺客との激しいカーチェイスというスリルが加わる。この敵の刺客がどこまでも卑劣で執念深いため、ストーリーの展開自体は予定調和だが、それでも最後までハラハラさせられる。その辺の力技はさすが、『アルマゲドン』の脚本を書いたジョナサン・ヘンズリー監督だ。
今回のニーソンは暴走するだけじゃない
昨今のリーアム・ニーソンは<暴走する男>が定番だが、そこに<超重量級の大型トラック>を掛け合わせて、暴走にさらにヘヴィネスを加えたのが持ち味の映画なのかと思いきや、それだけではないところが魅力。
実は多種多様な災難や妨害が次から次へと降りかかり、しかも鉱山に閉じ込められた人々を救うための装置の輸送なのでタイムリミットがあり、最後まで息をつく暇がない。さらに今回のニーソンは、暴走するだけでなく、窮地から這い上がる男。これは挽回できないだろうと思われる状況でも諦めない。また、横転した大型トラックを機材を使って起こすなど大型機械の扱い方が具体的に描写されるのも、新鮮な驚きを与えてくれる。
L・ニーソンの最強の共演者、その正体は……!?
L・ニーソンの主演アクションというと“また最強の親父かよ……”という声も聞こえてきそうだが、そんな予想を裏切る本作。今回のリーアムの存在感は重量級だ。
『二十日鼠と人間』を丁寧になぞりながらアクションを成立させる試みはもちろん、意外な裏切り者の正体を明かすサスペンスにも夢中にさせられた。
時限しばりに少々の矛盾を覚えるものの、それがまったく気にならないのは人間ドラマの熱はもちろん、『恐怖の報酬』にも似たトラックの豪速バトルがあるから。本作でのニーソンの最大の共演者は大型トラックだ。そういう意味でも重量級アクションなのである。
リーアムのファイト・オン・アイス
鉱山に閉じ込められた作業員を救うための機材を届けるためトラック野郎がアイスロードを疾走。凍った川を使う冬季限定の道路が舞台で、溶け始めた氷越しの映像が道中の危険を示唆する。が、怖いのは自然だけではなかった!? 主人公マイクと弟が失業中で、命懸けの運送の成功報酬が20万ドルなので、Y・モンタン主演の名作『恐怖の報酬』を思い出す人も多いだろう。しかしサスペンス色は薄く、アクション演技で物語を押し進めるB級アクションだ。突っ込みたい部分も少なくない。しかし、これはリーアム・ニーソン映画! トラックを運転しながら襲いくる敵と格闘し、極寒の氷上を駆ける彼の、御年69歳とは思えないタフさに驚く。
もう誰にもニーソンを止める力はない!
だんだん食傷気味になりつつあるリーアム・ニーソンの巻き込まれ型アクションだが、今度はかなりの常人役ということで、ちょっと異例タイプ。とにかく、無理難題を引き受ける『恐怖の報酬』的トラック野郎サスペンスと、『チリ33人 希望の軌跡』的タイムリミット・サスペンスが同時進行していく面白さが光る。主人公兄弟のやたら手際がいい車両整備シーンに対して、次々と彼らを襲うどこかもっさりしたアクションシーンは、明らかに70年代カーアクション映画へのリスペクト。それを含めて、★おまけ。そんなわけで、ニーソンVS自然繋がり『THE GREY 凍える太陽』な硬派な仕上がりを期待してはいけません!
トラック野郎が爆走する70年代アクションの荒ぶる匂い
やたら面白い! 凄腕職人ジョナサン・ヘンズリーも明言する様に、灼熱の『恐怖の報酬』(53年/77年)を氷の道に変換。カナダ北部の悪路を、超ワケありの任務を受けたケンワースのトラックが走る。『コンボイ』(78年)『爆走トラック'76』(75年)『トランザム7000』(77年)等に連なる系譜だ。
ジェイソン・イズベルが歌う“All I Do Is Drive”(ジョニー・キャッシュのカヴァー)を愛車のカーステで流しながら登場するネルシャツ姿のリーアム・ニーソンが英国人の「サー」なのにめっちゃ米国の労働者! 兄弟の設定は『二十日鼠と人間』がヒント。イーストウッド作の常連トム・スターンの撮影も流石!
“リーアム・ニーソンもの”としては手堅い
普通の人なのに、実は強くて怒らせると怖い。「96時間」以後、B級アクションスリラーに立て続けに出演し、独自のブランドを確立してしまった感さえあるニーソンは、今作でも期待を裏切らない。「普通こういう状況でこんなこと言う?」と思わせるセリフは多々あり、後半にわかる隠された秘密もリアリティに欠けるものの、うるさいことを言わずに楽しめばいいのだろう。69歳にして思いきり寒そうなロケ地で暴れ回るニーソンのプロ意識はさすが。遅くやってきたアクションスターの肩書きを「許されるかぎり保っていきたい」と語っている彼だが、ここまで続くとそろそろ多少スローダウンしてもいいのではとも感じる。