ダム・マネー ウォール街を狙え! (2023):映画短評
ダム・マネー ウォール街を狙え! (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
コロナ禍の閉塞感も見事に描写
なんたって、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー監督作。ポール・ダノ演じるYouTuber(今回も怪演!)と名もなき個人投資家たちによる“ウォール街をぶっつぶせ!”な下剋上を描いており、難解な専門用語も飛び出すが、同じく実際にあった“空売り”騒動を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のように観客を置いてきぼりにしない演出がミソ。SNSで繋がった「電車男」的な投資家たちのエピソードなど、コメディとシリアスのバランスも見事ななか、意外な役どころで名バイプレイヤーが登場。思わずニヤリとしてしまうなか、閉塞感たっぷりステイホームなコロナ禍映画としても見応えアリ。
株の話なのにエンタメ性たっぷり。共感もできる
今や時代遅れと思われていたゲーム小売店の株が急騰して騒然となったのは、かなり最近のこと。そのネタを早くも取り上げただけでなく、株の話なのにエンタメ性たっぷりの映画にしてみせたギレスピーと脚本家たちに脱帽。ウォール街のエリートに立ち向かう無力な市民たちという構造はそもそも共感しやすいが、年齢も人種も状況も違う多数のキャラクターが出番は限られていてもしっかり描かれていてさらに引き込まれる。セス・ローゲンがイメージと違う役を演じていたり、常に顔の半分をマスクで隠している店のマネージャーがデイン・デハーンだったりと、楽しくて豪華。パンデミックという時代背景もしっかり描かれている。
汚い手を使う金持ちをやっつけろ!
今の時代の富める者は、何か人の役に立つモノを作ったり、サービスを提供したりしている人ではなく、金融のルールを利用して、働いている人たちを踏みつけにしながら暴利を貪っている連中だ。しかも、スクラムを組んで邪魔者を徹底的に排除している。本作は、そんな連中に「株のフランス革命」とも呼ばれるレジスタンスを仕掛けた庶民たちの実際にあった物語だ。主人公サイドだけでなく、汚い手を使う既得権益層もちゃんと実名で登場させているのがいい。コロナ禍で酷い目に遭ったのが誰なのかも明らかにしている。金持ちや政治家に媚びを売り、(本当は何の得もしていないのに)自分も強者になった気分になっている人たちにこそ観てもらいたい。
ピープル・ハヴ・ザ・パワー!
C・ギレスピー監督は下層がてっぺんを脅かす、そんなドラマを得意としているが、本作はより痛快。近年の実話ということもあり、リアルな社会性を帯びている。
どこにでもいる個人投資家がソーシャルメディアでの呼びかけに応じ、空売りされている株を買いまくり、ヘッジファンドにダメージをあたえる。“富裕層のために貧しい者を軽んじるシステムに対する怒り”と、ギレスピーは物語の背景を語るが、それも納得。売りか、買いかで迷う投資家たちの心理もスリリングで、エンタメとしても面白い。
ロックダウンやネット掲示板の荒廃など庶民の閉塞感の描写もみごとで、この世界に生きるひとりのように楽しんだ。P・ダノ、好演!
騒動周辺の群像劇から、現代社会の姿が見えてくる
2021年に米株式市場で実際に起きた、個人投資家たちが大富豪に対抗したゲームストップ株騒動がコミカルに描かれて、株の知識はなくてもドラマは痛快。映画は、一般市民から大富豪までの多様な人々と、騒動が及ぼした余波を通して、現代社会の状況を浮かび上がらせる。騒動に参加した個人投資家の数人にも焦点を当て、彼らの動機はそれぞれ異なり、儲けた人も損した人もいることが描かれて、事態が立体的に見えてくる。
その群像劇のキャスティングの妙も見どころ。騒動の発端となる動画を配信する主人公役ポール・ダノの飄々とした感じ。株を買う人々、看護師役アメリカ・フェレーラ、店員役アンソニー・ラモスらがそれぞれ魅力的。