バンブルビー (2018):映画短評
バンブルビー (2018)ライター7人の平均評価: 3.6
『トランスフォーマー』第一作以来の出来、あるいはそれ以上
87年のカリフォルニアで、プリテンダーズのC・ハインド(米生まれだがロンドンに渡った姉御)が見守る下、ザ・スミスの「ビッグマウス・ストライクス・アゲイン」で目覚め、パジャマ替わりはE・コステロのTシャツ。UKロックに自我を託すヘイリー・スタインフェルドは高濃度なジョン・ヒューズ的ヒロイン像だ。デジタルコーティングのおばけと化していた本シリーズが久々に程よいアナログ感とティーン物の瑞々しさを取り戻した。
スミスでは「ガールフレンド・イン・ア・コーマ」が大ネタで、そこにも絡めた「DJバンブルビー」のアイデアも最高。女子とビートルのコンビはリンジー・ローハン主演の“ラブ・バッグ”=『ハービー』的!
このキュートさはきっとトランスフォーマー映画史上最高
見どころは、ストップモーション・アニメの名作「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」のトラヴィス・ナイト監督による動きの演出。バンブルビーは言葉が話せず、身体の動きだけでこまやかな感情を表すのだが、ここで監督が本領発揮。今回のバンブルビーは、初めて体験する地球の生活に戸惑う様子も、そこで出会った少女と少しずつ親しくなるさまも、トランスフォーマー映画史上最高のキュートさ。ボディの表現も、これまでのトランスフォーマーの重金属らしい硬度や重量感よりも、黄色の明るさや変形や動きの軽やかさが重視されている。主人公が女子でもあり、このバンブルビーは低年齢層の女子が見てもカワイイと思うに違いない。
SFもいいが、何より胸に迫る青春映画!
『トランスフォーマー』シリーズは回を重ねることにスペクタクルがスケールアップされたが、逆にドラマ面が弱体化した……と思っていた矢先のスピンオフ。青春ドラマから始まった同シリーズの原点回帰に嬉しくなった。
孤独な女子高校生と宇宙生命体との出会いと交流は、まさに一作目の『トランスフォーマー』。それだけでなく、劇中で引用されるジョン・ヒューズの青春映画、製作総指揮のスピルバーグにオマージュを捧げたかのようなアンブリン的ファンタジー色も光る。
80’sのヒット作を視野に入れたのは監督も認めているとおり。アクションのド派手さこそ薄れたが、この原点回帰は、胸に迫るという点で大正解だ。
『トランスフォーマー』1作目の、純粋な喜びを取り戻す
これまでとは違い、全体に丸みを帯びたシルエットになり、隠れられない場所で必死に身を縮めるマンガっぽい行動など、より「かわいく」変更されたことで、バンブルビーのペット的キャラが際立つ。
近年のアクション映画で流行の80年代テイストも音楽やカルチャーだけでなく、学校での上下関係に80年代青春ムービーの肌合いが濃厚。悩み多き主人公チャーリーと周囲との関係は、『トランスフォーマー』1作目のサムを思い出させ、同シリーズが後半になって置き去りにした、人間とオートボットの純粋な絆を取り戻すことに成功した。
ほぼ展開は予想どおりなのだが、あらゆる要素が的確でウェルメイドなので、欠点を見つけにくい安心作。
自分探し中の人に見てほしいチャーミングな作品
人気シリーズの最新版は、トランスフォーマーのオリジンと女の子の成長が描かれる。ロックと車の改造が好きなヒロインが家庭内でも学校でも疎外感を感じている設定は目新しくは無いが、バンブルビーと友情を培いながら自分を見つける展開はチャーミングで共感度大。『スウィート17モンスター』でも感じたが、H・スタインフェルドは“完璧とは程遠いJK”役が本当にお似合いだ。何かが欠けた者同士が補い合ってパワーを生むとわかるし、自分探し中の人は必見だ。舞台設定が1987年なのもいい。ヒロイン愛用のロックTシャツやザ・スミスなどの名曲、ウォークマンにVHSテープとノスタルジーを感じる(若い世代には新鮮?)。
「そもそも、おもちゃだろ!」感覚で、黄色いクルマ萌え
さすがは、ナイキ創業者のボンクラ息子、いや『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のトラヴィス・ナイト監督作。「ぶっちゃけ、何やってるか分からん!」マイケル・ベイ監督の本シリーズに対する、「そもそも、おもちゃだろ!」な回答で、体育座りもキュートなビートル仕様の黄色いクルマ萌え映画に仕上げている。とはいえ、『ブレックファスト・クラブ』やザ・スミスなど、80`sネタで味付けされた、“『スウィート17モンスター』継続中なヘイリー・スタインフェルドの『アイアン・ジャイアント』”という既視感は否めず、そこをどう捉えるべきか? ティーン映画としては、尺をあと20分を切れたら、最高だったに違いない。
ハートのある「トランスフォーマー」映画
「トランスフォーマー」と「共感」という言葉が、まさか一緒に出てくるとは。それというのも、今作は、何よりもまず80年代が舞台の青春映画なのだ。あの時代の音楽だけでも、一定の世代を興奮させるに十分。家でも学校でも居場所のない女子高生が心を許すのが、バンブルビー。「アイアン・ジャイアント」を思い出させる場面も多く、独創性にあふれるとは言えないものの、心が温まり、魅了されるのはたしか。個人的には、このままロボットの戦いなしでいってくれと思ったが、「トランスフォーマー」ファンのために、もちろんそうはいかない。その意味では、どちらの側にいる観客も、ある程度の妥協を強いられると言える。