シャザム! (2019):映画短評
シャザム! (2019)ライター7人の平均評価: 4
笑いあり涙ありの愛すべきヒーロー映画
まるでおバカ系ヒーロー映画のごとき予告編の印象とは裏腹に、トム・ハンクスの『ビッグ』にも通じる笑いあり涙ありの快作。『チャック』ファンとしてはザッカリー・リーヴァイの起用も嬉しい。主人公ビリーと宿敵シヴァナ。家族の愛情に飢えた両者は善と悪の対照的な道を歩むわけだが、そこでは現代社会における「家族」の定義が改めて問われる。必ずしも血の繋がりだけが家族の絆ではない。そして、手に入れたスーパーパワーを独り占めせず、世界を良くするためにみんなで分け合うという筋書きにも、殺伐とした現代社会に求められるヒーローの在り方が投影されていると言えよう。
ディケンズ的、かつ『デッドプール2』とワンセット?
「あんた根暗だな。DCユニバースから来たんじゃないの?」――とは『デッドプール2』の台詞。設定も主題も共通点の多い『シャザム!』はまるでこのアンサーだ。根暗の汚名返上とばかりに『ビッグ』を援用しつつご陽気なギャグで攻めるのだが、とはいえヒーローの再定義を推し進めてきたDCのシリアスな顔も忘れてはいない。
主人公ビリーと悪役シヴァナは同じ愛の飢えを持った表裏一体の存在で、彼らの運命を分けるのが親切な里親ファミリーたち。ぎりぎりのハードな環境をサヴァイヴしてきた孤独な者が、人間の良心に出会って変容する。この冒険譚かつ成長譚は『オリヴァー・ツイスト』や『クリスマス・キャロル』等と同じ精神に思える。
少年漫画の笑いと熱を正しく踏まえたヒーロー活劇
『アクアマン』で陽性路線に舵を切ったDCエクステンデッド・ユニバースが、さらにそれを推し進めた。ファミリー向けに近づいたが、もちろん単に子ども向けというわけではなく、これが堂々たるエンタテインメント。
スーパーパワーを手に入れた少年の調子コキは、いかにもミドルティーン。いたずら好きの一方で、想定外のことをやらかすと謝ったりする、生意気だが微笑ましいキャラがイイ。
脚の不自由なスーパーヒーローオタクの友人や、おしゃべりな年少の少女など、主人公の孤児仲間の配置も活きて、“勇気・友情・勝利”的な少年漫画のスピリットが脈打つ。これまでのDC作品でもっとも笑える点にも好感。
爆笑させつつ、新たなスーパーヒーロー論を宣言!
スーパーヒーローが大挙活躍中の今、ヒーローは自分がどういう思想を象徴する存在なのかを明確にするようになった。シャザムが宣言するのは"分かち合うことが出来てこそ、真のパワーだ"という主張。これが"中身はコドモ"の陽気なヒーローによく似合う。
突然、 超絶パワーを手に入れた高校生がロクなことをしないのが「クロニクル」だが、それが14歳の中学生で、悪ふざけもするが仲間のために本気で戦ったりもするのが本作。思考法も口調も14歳なのに、外見はスーパーマン系成人男性というギャップが笑える場面が続々。本作同様に子供が成人の外見になる名作「ビッグ」へのオマージュや、DCコミックだからこそのオマケも楽しい。
DCのシリアス路線を逸脱するユーモアに爆笑
ダークでシリアスなDC映画とは一線を画し、謎の老人に導かれてシャザムとなった少年ビリーの成長はユーモアたっぷり。大人の肉体に子供の心というアンバランスさ、主人公とオタク少年や天然少女とのやりとりが笑いを誘う。シャザムに変身後のずっこけぶりは『ビッグ』を意識しているし、Z・リーヴァイはT・ハンクスに続くと思わせる名演を披露。歌う場面が用意されているのは監督の気配りか。スーパーパワーを持て余すヒーローらしからぬ言動も15歳なら当然だし、世間から顧みられなかった孤児が世界を守ろうと立ち上がるまでの心模様も納得できる。家族第一主義はディズニーっぽいが、里子たちの結束に胸が熱くなった。
ローティーンの好物てんこ盛り!
“スーパーヒーロー版『ビッグ』”ということで、DCなりの『スパイダーマン』『アントマン』やってみた感強し! 監督は『ライト/オフ』のデヴィッド・F・サンドバーグだけに、ホラー演出がやたら巧いうえ、『ザ・ゲート』的ちびっこアドベンチャーに「パワーレンジャー」的チーム感まで、ローティーンの好物てんこ盛り! ただ、馴染みのない主演のザッカリー・リーヴァイを生理的に受け付けるか、という問題に加え、132分という長尺。しかも、売りである爆笑要素が意外と弱く、こちらから前のめりにならないと、なかなか笑えない。そういう意味では、吹替版監修・演出が福田雄一というのは、ピッタリかもしれない。
ヒーロー映画の原点的面白さ。オマケで「ボヘミアン」の興奮も
突然、覚醒した能力と戸惑い。能天気にパワーを使いたくなる願望と、ヒーロー映画の基本の基本が溢れ、全編、これだけ気持ちよく観られたアメコミアクション作品は久しぶり。DC映画は『アクアマン』でノリの良さに舵を切ったが、今回はその軽妙さに、あの『万引き家族』にも通じる人間関係が思わぬ感動を誘ったりして、元々のDCの魅力だったシビア&ハードな味わいがちょうどいいバランス。「ハリー・ポッター」の世界が頭をよぎるビジュアルや、同じ設定の『ビッグ』へのオマージュも物語にうまく溶け込んでいる。『ボヘミアン・ラプソディ』の勢いに便乗するような演出もあるのだが、間違いなくテンション上げる意味で効果絶大!?