透明人間 (2019):映画短評
透明人間 (2019)ライター7人の平均評価: 4.1
古典的SFホラーの新解釈として秀逸
『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』の大失敗で頓挫した「ダーク・ユニバース」シリーズを、新たに仕切り直したユニバーサル・モンスターのリブート・シリーズ第1弾。H・G・ウェルズの原作小説に出てくる天才科学者グリフィン博士(=透明人間)もエリート意識の高いクソ野郎だったが、本作のグリフィン博士はさらに女性へ対する独占欲と支配欲の強い典型的なDV男として描かれる。そんな博士に愛されてしまったヒロインの地獄巡りを通じて、DV被害者の恐怖と絶望をリアルに追体験する。それだけに、辛く感じる観客もいるだろう。とはいえ、王道的なガスライティングの作劇法を応用した脚本の出来は良く、古典の新解釈として秀逸だ。
見えないストーカーの恐怖談として、大成功!
透明人間を描いた映画はこれまでにもたくさんあったが、本作がフレッシュに見えるのは、ひとえに視点がこのホラー・キャラではなく、彼に襲われる女性にあることだろう。
目に見えない者にストーキングされる恐怖を観客に体感させるうえで、これは効果絶大。周囲にも警察にも信用されず、気を病み、心をも病んでいくヒロインの神経衰弱の過程も伝わり、心理スリラーとしても見応えアリ。E・モスの熱演を目にするだけで神経がマイってくる。
ワネル監督は前作『アップグレード』でもハイテクノロジーをSF的解釈で面白く料理していたが、今回も透明化にそれを反映。光学迷彩スーツのビジュアルもクールで、ときめいた。
ツッコミどころはあるけれど,E・モスの演技でひっぱる
H・G・ウェルズの原作と趣が異なり、本作は粘着気質な透明人間に狙われた女性の恐怖が描かれる。モラハラ男がストーカーになるだけでもホラーなのに、恐怖の渦中にあると誰にも信じてもらえない絶望感たるや!? 目に見えぬ敵に脅かされ、心神喪失寸前まで追い詰められヒロインをエ・モスが体当たりで熱演する。さまざまに揺れ動く心理を巧みに演じ分けていて、まさに彼女の一人舞台だ。特に反撃に転じる後半は彼女の“か弱そうに見えて実はタフ”というイメージが生きた。ペンキをかけられた透明人間が足跡も残さず逃げるなどのご都合主義的な展開にツッコミたくはなるが、モスの演技だけでも見る価値はある。
棚ぼた、大発見!!
ダークユニバースがとん挫して、はてさてどうなるかと思ったユニバーサルモンスターリブート計画。
しかし、そこは流石のブラムハウス。
透明人間という古色蒼然としたネタをこんなにも新鮮な映画にしてくるとは!?
何より、透明人間というテーマでありながら、襲われる側の不安をメインに描くというコロンブスの卵的な発想。お見事一本です。
エリザベス・モスの明らかに精神的にやられていく演技も相まって、透明人間がモンスター映画からサイコサスペンスに見事に生まれ変わりました。
全米大ヒットも納得の怖さ&面白さ!
ノースターな製作費700万ドルの低予算。ホラーなのに、124分の長尺。ここまで期待要素が皆無ながら、全米大ヒットも納得の怖さ&面白さ! 『愛がこわれるとき』や『イナフ』など、“ヒロインを追い詰めるハラスメントの相手が透明人間だったら?”という、現代的かつウルトラCな設定の下、“見えないもの”をヒロインと一緒に追うカメラワークが、ただならぬ緊迫感を漂わせる。そのため、SFホラーというより、サイコ・サスペンスであり、一人芝居状態なヒロインに「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のエリザベス・モスをキャスティングしたことを匂わせる展開にもニンマリ。リー・ワネル監督はいい意味で、裏切ってくれた!
"透明人間"が、現代社会にもっとも恐ろしい形で甦る
「ユニバーサル映画のクラシック・モンスターを現代に甦らせる」というコンセプトに、真正面から取り組んだのが本作。「ソウ」シリーズ第1作の脚本以来ずっとホラー映画に関わってきたリー・ワネル監督が追求したのは、"透明人間"というものを、現代社会にもっとも恐ろしい形で蘇らせることだったのではないか。それを透明人間の素性や意図という設定だけでなく、それが日常生活の中でどのような形で出現したら恐怖感が高まるのかを細かなシーンを重ねて描くところに、この監督がホラー映画で培った技が活かされている。さらに最後まで見ると、今、モンスターとはどのようなものなのか、という問いかけが静かに浮かび上がってくる。
五感が素直に反応する、これぞ「怪奇現象ムービー」の本領
冒頭から何が起こるかわからない緊張感が張り詰め、見えない何かが「そこにいる」感覚を、じわじわと、かつ不気味に伝えていく。「それやったらダメ!」という危険も含め、『透明人間』という題材への潔いほど真っ当なアプローチ。基本的に怪奇ファンタジーではあるが、現代の映画として、きっちり科学的理由も観ているこちらを納得させる。だからこそ、本気で怖がることができるのだ。
キャストは、はっきり言って地味。主演のE・モスはヒロインの「華」に欠けるのだが、それゆえに周囲の目には狂人のように映る状態がしっくりくる。
ツッコミどころもある。しかしそこも作り手がホラーの魅力と開き直っているようで好印象と化すのだった。