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エンパイア・オブ・ライト (2022):映画短評

エンパイア・オブ・ライト (2022)

2023年2月23日公開 115分

エンパイア・オブ・ライト
(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.9

なかざわひでゆき

サム・メンデス監督が捧げた映画館へのラブレター

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ‘80年代初頭、長引く経済低迷によって庶民の暮らしが疲弊し、立場の弱い移民たちへの差別が激化していたサッチャー政権下のイギリス。海辺の映画館で働く孤独で繊細な中年女性ヒラリーと、日々受ける差別の屈辱に耐え続ける移民青年スティーヴンの心の触れ合い。暗澹とした息苦しい時代にあって、人々は映画館のスクリーンに映し出される別世界に没頭し、束の間ではあれども辛い日常から解放される。そんな特別な場所の舞台裏でも、孤独な魂を抱えた人々が互いに寄り添い支え合う。映画を見る手段が多様化した今だからこそ、映画館の存在意義を改めて見つめ直す作品と言えよう。当時の英国と今の日本の類似点の多さにも注目したい。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

ひたすら映像に陶酔すれば、それでいい

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

80年代の映画館が舞台なので、当時の名作の引用やエピソードが散りばめられ(特に『チャンス』の使われ方は感涙モノ)、なおかつ映写技師や映画オタクの従業員のセリフに敏感に反応させ、文字どおり映画愛が捧げられた一作。S・メンデスも自身の思い出に優しく浸ったようで、彼らしい毒気や鋭利さは控えめ。
脳裏にやきつくのは名カメラマン、R・ディーキンスが切り取る「絵」の数々。闇の黒と、オレンジやイエローの光、あるいは自然光の白や薄グレーのコントラスト。さらに海辺の町の淡い光が反射する髪など、細部までその美しさは身悶えするほど。まさに究極のアート。その瞬間、瞬間を記憶するだけでもスクリーンで体感する意味がある。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

映画館は、マトモなあなたもヘンテコな私も受け入れる!

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映画館を舞台にした点で、まず『ニュー・シネマ・パラダイス』風の映画愛の物語がある。一方には、1980年代初頭に英国で吹き荒れた人種差別に抵抗する者のドラマ。

 映画館でテキパキ働くヒロインは中年の白人女性で、最初は頼もしく映るが、やがて意外な秘密が明かに。同僚となり、彼女と恋に落ちる黒人青年の好奇心旺盛さは社会の現実に砕かれる。それぞれにハンデを負う者たちの運命は悲劇的だ。

 それでも映画館は彼らを受け入れる。職場の仲間たちの結束の固さに見える“寛容”。不寛容な現代に、この映画が作られた意味は大きい。冷静さと熱さをバランスよく取り入れてヒューマニズムを問うてきたメンデスの職人芸。巧い!

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くれい響

さよならミス・ヒラリー

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

海辺の映画館「エンパイア」が舞台の群像劇で、演劇畑出身のサム・メンデス監督が脚本も手掛けていることから、どこか戯曲ぽさも感じる。時代設定が1980~81年だけに、当時のリアルな上映ラインナップに加え、失業率を増加させたサッチャリズムの空気感も描写。さらに今、情緒不安定な女性を演じれば右に出る者はいないオリヴィア・コールマンやいつもの英国紳士と異なるゲス演技を魅せるコリン・ファースらによる化学反応も起こるが、テーマを盛り込みすぎた感が強く、消化不良な部分は否めない。とはいえ、タイトルにも絡むロジャー・ディーキンスによる撮影とハル・アシュビー監督の『チャンス』の使い方に、★おまけ。

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猿渡 由紀

実母をモデルにしたパーソナルな作品

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

「1917 命をかけた伝令」は、サム・メンデスが祖父の話にインスピレーションを得て初めて脚本を共同執筆した映画。今作は、精神を患っていた母をモデルに単独で脚本を書いた。まるで違う映画だが、どちらも個人的なところから生まれたのだ。住んだ国は違えど同じ頃に10代を過ごした身としては、登場する具体的な映画にノスタルジアをどっぷり感じた。職場でのセクハラ、人種差別、メンタルヘルスなど、今なおタイムリーなトピックが取り上げられるのも興味深い。そのひどいセクハラ上司をコリン・ファースが名演。ロジャー・ディーキンスによる映像、トレント・レズナーとアッカス・ロスによる音楽がメランコリーなムードを高める。

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平沢 薫

映画が、あるとき、とても大きなものになる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ヒロインの複雑な感情の動きを自然に体現するオリヴィア・コールマンが、いつものように魅力的。英国の海辺の小さな町、エンパイアという名の古い映画館の変貌は、大英帝国の変化をも映し出す。ロジャー・ディーキンスの撮影も、トレント・レズナーとアッティカス・ロスの音楽も、主張し過ぎず静かに身を潜めている。ヒロインと同じように。

 そして、この頃続く"映画監督による映画論"としても興味深い。本作の中で、映画は、時代の大きなうねりの中ではごく小さなものだが、ある瞬間のある人間にとっては、とても大きなものになる。ヒロインが抱く"古びていくもの"についての想いが、監督の映画に寄せる想いと呼応して見える。

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村松 健太郎

オリヴィア・コールマン無双

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

サム・メンデス監督が映画と祖国イギリスへの思いを込めた一本。1980年代の物語ですがコロナ禍を経た今、非常に今日的なイメージを抱く映画になりました。
見どころは何と言っても主演のオリヴィア・コールマンでしょう。キャリア的に見るとやや遅咲きの様に見えますが、オスカー受賞後はちょっと手が付けられない無双状態です。本作ではサム・メンデス監督の当て書きだったそうですが、彼女という圧倒的な軸があるために映画が成り立っていると言えるでしょう。共演陣でいえば超新鋭マイケル・ウォード。オリヴィア・コールマンを向こうに回して大健闘です。顔と名前を憶えておきたいです。

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森 直人

イギリスの海辺の町にて、私たちの小さな「帝国」

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

映画(館)についてのオマージュ映画が相次ぐ中で、『エンドロールのつづき』(パン・ナリン)が自己実現&映画の原理論、『銀平町シネマブルース』(城定秀夫)が人間群像メインとしたら、サム・メンデス監督の本作は最も社会派アプローチ。1980~81年の英国を舞台に、スキンヘッズ(ナショナル・フロント)とサッチャーによる右傾化の影を反映。映画館がはみ出し者達のサンクチュアリとして機能する優しい視座は『銀平町』に通じる。

ある女性の孤独と揺れを描く主軸は「オリヴィア・コールマンもの」というワンジャンルの迫力も湛えつつ、マイケル・ウォードが抜群。2 Toneなど音楽、さらに文学系のアイテムの使い方もいい。

この短評にはネタバレを含んでいます
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