エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス (2022):映画短評
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス (2022)ライター8人の平均評価: 4.8
ルックはカオスだけどコアにあるのは“家族”
移民家族、セクシャルマイノリティ、中年女性の危機、親子の断絶などのさまざまなテーマを、マルチバース設定と暴力的なまでのイメージの奔流の中で描ききったハイパーな一作。ルックはカオスだけど、コアにあるのは“家族”という今も昔も厄介で愛すべきもの。ラストはなるほどなぁ、という感じ。人生いろいろあるし、あのときああすれば良かった、こうしておけば良かったと思うことは無限にあるけど、虚無感や無力感にも負けずに前へ進んでいこうと思わせてくれるミシェル・ヨーのパワーに感服しきり。映画ネタも盛りだくさん。今あえてのバッドテイスト(というか悪ガキ感覚)な味付けに乗れるかどうかは人によるかも。
“ミシェル・ヨー版『ザ・ワン』”では終わらない!
これまで一発ネタで押し切っていたダニエルズ監督だが、今回は「カンフーがすべて」なマルチバースものながら、“ミシェル・ヨー版『ザ・ワン』”で終わらないエンタメてんこ盛り。中国からの移民家族による「if もしも」なドラマとさまざまなテーマが入り混じるなか、一度は結婚引退したヨーやウォン・カーウァイ監督の助監督で食いつないでいたキー・ホイ・クァンのセルフパロディに、秒で登場する西脇美智子などの“お遊び”もすべり知らず。謎の『レミーのおいしいレストラン』推しなど、「A24」らしいカルト要素も強いが、オスカー最有力候補も納得で、確定申告シーズンという絶妙な日本での公開タイミングに、★おま
今まで見てきた映画表現の常識を忘れて臨むべし!
これを斬新と呼ばずになんと呼ぼうか!この監督コンビの『スイス・アーミー・マン』も相当ぶっ飛んでいたが、本作はまるで比じゃない。主人公は働きずくめの毎日に疲れ果てた中年女性。私の人生これでよかったのか。違う選択をしていれば違う生活があったのではないか。大切な時間やチャンスを無駄にしてきたのでは。誰もが一度は感じるだろう人生の迷いや後悔や失望を、マルチバースを跨いだ奇想天外な大冒険に託し、超人的なカンフー・アクションとウルトラナンセンスなユーモアをたたみかけつつ、愛情と優しさと慈しみに溢れた人間賛歌へと昇華させている。今まで見てきた映画表現の常識を忘れ、感じるままに身を任せるべき映画だ。傑作。
地に足のついた、理想的なブッ飛び方
マルチバース設定がここまで一般化したのはMCUのお陰なのかどうかはともかく、この“ねじれ母子”の設定は面白い。
突拍子のない物語ではあるが、ベースとなっているのは親離れ・子離れという社会的な思考で、それは共感を引きやすいだけでなく人間味も宿る。SF展開で、ここまで描けたことに脱帽。キー・ホイ・クァンふんするダメ親父の活躍ぶりが、また刺さる!?
カンフーアクションも全開で、ヨー姐さんの熱演には絵的な迫力も加わって拍手喝采。A24の製作作品らしく米賞レースを席巻中だが、まずはそんな堅苦しい色眼鏡を外して、ブッ飛んだ世界を楽しんで欲しい
文句なし!イマジネーションの塊
近年のA24への無条件の礼賛状態には疑問を感じていてるところなのですが、本作はもろ手をオススメです。イマジネーションの塊と言っていいで快作です。
某ユニバースが何本もかけて描いているマルチバースがまさか140分の映画一本で描き切れるとは思いませんでした。ルッソ兄弟が製作に噛んでいるのも不思議な巡り会わせですね。もちろんそれを成立させているのは主演のミシェール・ヨーの存在。香港アクションからスタートして様々なキャリアを積んできた彼女の集大成と言える映画でしょう。賞レースの勢いも納得です。
すべてのものがすべての世界でいっぺんに
タイトルは、ヒロインが複数のマルチバースを同時に体験することも意味しているが、この映画の在りようのことでもあるだろう。多様なジャンル、さまざまなドラマがこの1作にギュッと詰めこまれている。SFでコメディでアクションで人間ドラマで、夫婦愛、母娘愛、同性愛、中年の危機、文化ギャップなどの要素が盛り込まれた複数世界が、細かい編集と快速スピードで展開されて、万華鏡のように全体を構築していく。複数世界の中には、かなりトンでもない世界が幾つもあり、その遠くまで行き過ぎる感じが爆笑もの。とはいえ、ギャグのセンスはこの監督コンビの『スイス・アーミー・マン』よりまろやか。そして最後に感動が待っている。
時代の一本!
まさかのアカデミー賞最多ノミネートに躍り出ているA24作品だが、観れば納得。旬のオーラと勢いが漲っており、キー・ホイ・クァンのヤバすぎるウエストポーチ・アクションだけで最高に幸福な気持ちになる。カンフーや少年ジャンプっぽい(うすた京介とか)無邪気な下ネタを炸裂させつつ、『フェアウェル』ばりのアジア系移民物語をしっかり語るバランスが凄い!
監督もまさか!のダニエルズ。S・ジョーンズやM・ゴンドリーの系譜を受け継ぎつつ初期衝動の中二病をがっつりキープ。瞬発力に加え持続力も身につけ、バタフライ効果を基に人生論としてのマルチバースを展開。D・バーン&ミツキの“This Is A Life”も泣ける!
ミシェル・ヨーにオスカーを!と願わずにいられない超快作
最近話題のマルチユニバース、これほど強引かつ大げさに、なおかつ巧妙に計算して扱った作品はレア。ランドリー経営の税金で悩む主人公が、別ユニバースへ移動するテクを獲得し、運命を変えていく基本設定は想像の範囲内。しばらくは他のユニバースとの関係、移動の方法&裏事実など、観ていて大混乱するも、単純にビジュアルとしてユニークだし、その場での突発的な動きが、別ユニバースで同じ動きになる相互作用で楽しさ急加速。
千変万化シチュエーションで、演技も完璧に変わるミシェル・ヨーの凄み。もちろんカンフー技にはため息。キー・ホイ・クァンの永遠の少年っぽさとの対照も効果的で、人種やセクシュアリティの絡め方も今っぽい。