クレイヴン・ザ・ハンター (2024):映画短評
クレイヴン・ザ・ハンター (2024)ライター7人の平均評価: 3.4
再度の公開延期がなんとなく分かる
子役出身のアーロン・テイラー=ジョンソンの成長ぷりを親心な感覚で観ると感慨深く、ジェームズ・ボンド候補に挙がったのも納得な一本。父と弟役にラッセル・クロウとフレッド・ヘッキンジャーという『グラディエーター』組を揃えるなど、血生臭い硬派な作りを目指したのは分かるが、いかんせんダークヒーローものとして『ヴェノム』ほどキャラが立っておらず、ロシアンマフィアの家族の物語としてもドラマ弱すぎという、いろんな意味で中途半端な仕上がり。疑問が残る「なぜ、J・C・チャンダー監督だったのか?」など、再度の公開延期が俳優組合のストライキの影響だけじゃなかったようにも勘ぐってしまう。
確かにマーベル映画としてはハードで血生臭いが…
百獣の王ライオンの如きスーパーパワーを持つ最凶ハンター、クレイヴンが、法の目をかいくぐる極悪人どもを血祭りに挙げていく。まさに毒を以て毒を制すとはこのこと。そこへ、裏社会を牛耳る犯罪組織のボスである冷酷非情な父親、強くて男らしい兄に愛憎半ばする思いを抱く軟弱な弟との複雑な関係を軸とした、シェイクスピア悲劇さながらの宿命的な家族のドラマが絡んでいく。まあ、話の展開はけっこう予定調和。確かにマーベル映画としては血生臭いシーンが多いものの、しかしスプラッター映画を見慣れた映画マニアにしてみれば大したことはないし、そもそもハードなバイオレンス路線とアメコミ的な荒唐無稽の相性にも疑問の余地が残る。
SSUの最終作はアンチ家父長制アクション
ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の新作(と思ったら最終作)は、爽快なアクション作ではなくドラマ寄り。アーロン・テイラー=ジョンソンとラッセル・クロウの親子の対立がメインのストーリーで、支配的な父親と息子たちというプロットは『アイアンクロー』と同じだが、悪いオヤジがのさばる家父長制への明確な“NO”という姿勢は伝わってくる。ヒーローものならではのアクションも爽快感や躍動感メインの演出ではないのは新しい取り組みだが、作中で描かれる“悪”はさまざまな事態が進行している現実と照らし合わせるとずいぶん素朴な印象。動物たちの活躍が爽快。
マーベルにマフィア映画の可能性を見た
海外での批評ほどにヒドいものに思えないのは、ある種の骨太さが脈打っているから。マーベル原作は確かにポイントだが、むしろギャング映画のような血肉が込められている点に注目したい。
父の冷徹な帝王学を受け継がざるを得ない主人公の宿命は、R15+指定を受けたバイオレンスによってヘビーに彩られる。ヴィラン奇譚が『ゴッドファーザー』の世界観に溶け込んだというと怒られるかもしれないが、ファミリーの宿命という点では的外れではないだろう。
肉体重視のアクションは目を見張るし、マーベル作品には珍しい悲劇の重さもある。個人的には続きが観たいが、スタジオの方針でそれがしばらくかなわないとの報は残念。
SSU最後の一作
SSUが本作をもって、いったん終了とのことで、振り返ってやはり苦しいユニバース作品だったなと思わざる得ません。スパイダーマン抜きでやるとどうしてもヴィランの物語でお話が重くなりがちです。本作はちょっとそんなSSUの全てが象徴的に出た感があります。主人公の誕生から描く必要があるとは言え128分はちょっと長かったかな。思い切って10分ぐらい尺を切り取っても良かったかもしれません。ただ、そういう部分を差し引くとアーロン・テイラー=ジョンソンは魅力がある俳優なので楽しかったです。パルクール的なアクションも見ごたえありました。
肉食猛獣の本能がアクションヴィランにハマって新次元へ
「アクションヒーロー=野性」という法則を存分に証明する快作。流刑地から逃亡を試みる冒頭シークエンスから、主演アーロン・テイラー=ジョンソンのワイルドな持ち味が全開となり、観ているこちらもバイオレントな気分に一気に浸ってしまう。映画の目的が的確に達成される感覚だ。
ロシア、NY、アフリカ、ロンドン、トルコと世界を飛び回る展開は“次のボンド役”と噂されるテイラー=ジョンソンの現状と重ねて観れば、別の楽しさも迫り出してくる。弟役F・ヘッキンジャーもこのところ話題作が相次いでいるが、その理由を本作の後半で納得できるかも。
全体に描写はハードを極めており、殺し、殺される無惨さが大自然のルールだと再認識。
アメコミ映画化手法の新たな領域に踏み込む
『トリプル・フロンティア』『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』のJ・C・チャンダー監督が、彼の作風のまま、独自の解釈でアメコミ原作に挑んだ大胆さが、まずは魅力。そのため、あえてソニー製作のマーベル映画に既出のキャラクターたちを登場させ、彼らはこの世界ではこうなる、と見せつける。
本作では、クレイヴンの本質は捕食者で、獰猛な野生動物。なので獲物を仕留めるときは、気づかれないよう忍び寄り、瞬殺する。暴力に限度はない。身体の動きも野生動物と同じ。その独特の動きが、ヴィジュアル面の面白さを生み出す。その一方で、父と息子、兄と弟の物語は、ギリシャ悲劇の趣。アメコミの映画化手法の新たな領域に踏み込む。